思いつくままに 〜 謎の細道 (2001年10〜11月)

思いつくままに 投稿者:なぞれん 投稿日:2001/10/26(Fri) 11:23 No.1686

身辺雑記        謎煉

生きんと欲すれど
老いて
病に倒れ、今、将に
死なんとす

四十を越して
苦労ばかり
八方ふさがり
苦草を服むが如し


死の向こうに何があるのだろう。死への恐怖が
沸々と湧きあがる。死ぬまで痛むだろうか。痛み
に耐える力が残っているのだろうか。未知のもの
ゆえ、経験無きものにたいする恐怖

 死後はスプーン一杯の塵埃なのだろうか。無明
の闇の彼岸にどんどん落ちていく自分。無明の闇
に浮遊する無限の数のたましい。僕はそこで先に
往ったちちははに会えるのだろうか。ちちもきた、
ははもきたあの世界に僕は居所がほしい。ちちは
はの膝元で。。さいきんエゴイスチックになって、
生ある自分の周りはどうでも良くなってきた。
以前ほど様々な欲望に捉われなくなった。しかし、
若いときあれほど嫌悪した死を受け入れる用意が
出来てきた。しかし、用意が出来たのと恐怖は別
物である。今、僕の心の中で共存している。死後
の世界では僕のアイデンティティはあるのだろう
か。浮遊する幾億の死者の中で謎煉は謎煉と認識
できるのであろうか。僕の知人で彼岸まで行った
事があると称する人が居る。謎煉が謎煉と認識す
る事が出来ないならば、まして、ちちははは解ら
ないだろう。僕は今まで父に会った事がない。そ
のちちに会えるなら彼岸もまた楽園かもしれない。
恐怖と安寧、勿論圧倒的に恐怖が支配している。
僕の心は僅かな可能性に幾分かの安堵を見出そう
としている。病院という閉ざされた世界はある面
で人を狂気にさせる。考えることが狭くなり、バ
ランスの取れた思考が出来なくなる。一途という
よりは依怙地である。

紅葉狩り 乙女の如く 頬映し    謎
もみじがり おとめのごとく ほほそめし


高橋治著 「蕪村春秋」 を流し読みし後雑句

父母の ことのみおもう 秋のくれ     蕪村
ちちははの ことのみおもう あきのくれ

父母の ことを御杖に 御許へ       謎
ちちははの ことをみつえに おんもとへ

父母の こと考えつ 御許に        謎
ちちははの ことかんがえつ おんもとに

「自句解説」
 秋は死を迎える季節だ。冬は死そのものだ。春の
彼岸がこれからの生を謳歌しようとするのに比べ、
秋の彼岸は死者を弔うのに本当に相応しい。小生の
最初の句は御杖と御許と御の字を二つも使うのは気
が引ける。それで、二句目も作ってみたが僕は杖の
ほうが気に入っている。杖は彼岸に向かう僕の道し
るべであり、父母の元まで届けてくれる魔法の杖だ。
 小野の小町が漂落し、卒塔婆小町として老醜を曝
す。彼女は片手に気の根っこのようなごつごつした、
だが細い杖を持っている。その杖は死後、卒塔婆と
なる。勿論死後の杖ゆえ、卒塔婆になるような杖で
はない。

薮入りの 寝るやひとりの 親の側     太祇
やぶいりや ねるやひとりの おやのそば

梅雨に入り 蚊帳張りたし 親の家     謎
つゆにいり かやはりたし おやのいえ

「自句解説」
 学校を出て東京に就職したとき半年に一度は帰阪
していた。母は何も言わず美味しいものを拵えてく
れた。僕も黙ってそれを食べ慌しく東京に戻ってい
った。その数年前までまだ八畳間に蚊帳を張ってあ
った。蚊帳の裾から小さくなって潜り込まないと
「早く閉めなさい。蚊が入る。」と叱られた。


舟よせて 塩魚買うや 岸の梅        蕪村
ふねよせて しほうおかうや きしのうめ

足止めて 美味を凝視るや 秋の店      謎
あしとめて びみをみるや あきのたな

「自句解説」
 病院のすぐ近くに大きなデパートがある。僕は食料
品売り場覗くのが好きだ。美味しそうに見えてももう
買えなくなった。体が美味を拒否するのです。もはや
「凝視る」でしか味わえなくなった。

古井戸の くらきに落る 椿哉        蕪村
ふるいどの くらきにおつる つばきかな

チャイニーズ シンドロームか 吾が魂    謎
ちゃいにーず しんどろーむか あがたまし

「自句解説」
前文参照

たらちねの 抓まずありや 雛の鼻      蕪村
たらちねの つままずありや ひなのはな

たらちねの 一抓みしか 吾子の鼻      謎
たらちねの ひとつまみしか あこのはな

たらちねの 一抓みしか 茄子の花      謎
たらちねの ひとつまみしか ナースのはな

「自句解説」
 この病院はいずれがあやめか杜若級の美女揃い。その
中でもM嬢はお雛様のような美女で真ん丸の顔を中にち
ょこっと小さな鼻が付いている。僕の娘も親に似ず小さ
な鼻が鎮座している。まこと、趣のある顔である。

雨の日や 都は遠き もものやど        蕪村
あめのひや みやこはとおき もものやど

夜の病舎 千里の遠き 叔父貴来ぬ       謎
よのわくらや せんりのとおき おじききぬ

「自句解説」
 吹田の千里の叔父が見舞いに来てくれた。同病ながら
すこぶる元気である。この蕪村の文庫本をおみやに持っ
て来てくれた。勿論、遠きと千里を意味付けて作った。

最後かと 思えば苦し 旬の茸         謎
まつごかと おもえばにがし しゅんのたけ

誰が所為か 笊被せれど 吾子が背       謎
たがせいか ざるかぶせれど あこがせい

「自句解説」
 自慢ではないが我が家はみんな大男、大女である。昔、
笊を被って股旅物の真似をして「笊を被ると背が伸びな
い」と母に叱られたのを思い出す。句自体は所為と背を
かけた駄作。

寂として 客の絶間の ぼたん哉        蕪村
せきとして きゃくのたえまの ぼたんかな

寂として 患者の絶えた 待合か        謎
せきとして かんじゃのたえた まちあいか

咳をして 人の絶えたる 炭そ菌        謎
せきをして ひとのたえたる たんそきん

夏風や 帷子の裾 吹きぬける         謎
なつかぜや かたびらのすそ ふきぬける

帷子で 渚を駆ける シンドバット       謎
かたびらで なぎさをかける しんどばっと

「自句解説」
 帷子を麻等で作った薄物で極めて涼しい。浴衣だと風
を通さないので暑く浴衣の裾自体がまとわり付くが、帷
子は風がまとわりつく感じである。
シンドバットは論評に値せず

こがらしや 炭売りひとり わた舟       蕪村
こがらしや すみうりひとり わたしぶね

春一番 までもつか吾が いのち金       謎
はるいちばん までもつかわが いのちかね

「自句解説」
 文字通り私の窮状を呼んだ句。金が尽きるのが先か、命
の尽きるのが先か。古来より永遠に解けぬ命題である。

我園の 真桑も盗む こころ哉          蕪村
わがそのの まくわもぬすむ こころかな

正すべき 履さえはかず 三週間         謎
ただすべき くつさえはかず さんしゅうかん

「自句解説」
 李下に冠を正さず、瓜田に履を云々と中国にあるが正す
べき履を履いていないので盗みようがない。蕪村の真桑は
「マッカ瓜」の事。

 随分長文になったようで申し訳ありません。癌の治療も
来週半ばで峠を越すようです。肝硬変の症状も大分改善さ
れました。病院生活は結構忙しく、皆様についえいけませ
んので、蕪村のパロリを作りました。
 今日三回目のきつい治療があります。死ぬ苦しさです。
でも、死んだら苦しめないか!

           某病院にて 謎煉




Re: 思いつくままに リッチくん - 2001/10/26(Fri) 22:39 No.1687  


涙が止まりません・・・・。

リッチくん用のメモに入れて下さい。 お願いします。


Re: 思いつくままに Kiiちゃん - 2001/10/26(Fri) 23:03 No.1688  


家は食べ物屋なのですが
最近 ご来店いただくお客様からアタシ
オネーサンよりオクサンとお声を掛けていただけるンす(--メ)
ワタシはもう充分にオバチャンエイジだし(笑)
其のこと自体はソンナにイヤでもないのヨ
でも 時に無性に淋しいなと思うのは
「甘えられる人が少なくなったな」って事。
トッポイネーチャン扱いして下さる方々が【人材不足】なのよね
謎様ぁ〜 
気の早いことおっしゃっていると後々
歯噛みせんならんのちゃう?
アタシみたく貴方に甘えたがってる美女がココにはスズナリ!

お辛い検査はもう済んだかしら?
ご無理が無かったら気晴らしにお声を聞かせて(^ー^* )


Re: 思いつくままに もんた - 2001/10/27(Sat) 20:18 No.1691  


謎煉さんのこと お顔も何も存じ上げない。
けれど貴方様が必死に耐えておられる治療が
必ずや良い効果をもたらします事を
今宵の月に心から祈っております。


ほんま、いたいで なぞれん - 2001/10/28(Sun) 11:44 No.1692  


自己批判
 昨日、死後の不安を様々書きましたが、本当に病と戦っ
ている人は、そんなことより、明日、痛まずに朝を迎えら
れるだろうか。いや、明日の朝を生きて迎える事が出来る
のだろうか。今の病と闘っているのです。死後のことなど
に心を煩わす余裕など無いのです。死んだ父母なんかと会
えるなんて考えている僕は大あまな人間でした。自己批判
します。

 現況
 入院後三週間を越しました。今回、入院前の検査で二個
の癌が発見されました。一つは前回エコーでは見えずCT
下でアルコール注入法で癌の消滅を図ったが取りきれず残
されたもので、もう一つは前回膵臓の陰に隠れて見えなか
ったものです。今回この2個の癌に対して4回のペイトを
行う事になり、昨日三回目の治療が終了、来週の火曜日に
最後の治療を行い、十一月上旬には退院できそうです。も
っと怖いのは肝硬変でこれも随分進んでいます。十一月十
三日からニュージーランドに静養に行く予定でしたが、こ
の体で長期の旅行は無理で、航空券は購入していたのです
がキャンセルしました。今回の入院は三十日強くらいにな
りそうです。

暗闇の 筧をつたう 蛍かな         許六
くらやみの かけひをつたう ほたるかな

暗闇に 茄子の電灯と 宇治蛍        謎
くらやみに なすのでんとうと うじほたる

「自句解説」
どなたか解説してください!


リッチさんへ
<リッチくん用のメモに入れて下さい。 お願いします
どういうことなのでしょう? メールのこと?

Kiiちゃんへ
<気の早いことおっしゃっていると後々歯噛みせんなら
んのちゃう?
まこと、反省しています。今回、自己批判しました。
<アタシみたく貴方に甘えたがってる美女がココにはス
<ズナリ
すみませんが、僕のストライクゾーンのなかでしょうか?
一応、30より下に限定させていただいております。痩
せたりといえ、謎は謎。昔取った杵ずか!今までの実績を
曲げてまでは!!

<ご無理が無かったら気晴らしにお声を聞かせて(^ー^* )
Kiiちゃんがジャクリーヌフランソワ(?)の「聞かせて
よ、愛の言葉を」を歌ってくださるなら、、、。

                 謎

もんたさん、ありがとうございます。


リッチくん用のメモ リッチくん - 2001/10/28(Sun) 19:45 No.1693  


ここの掲示板のカキコは いずれは消えていくのです。
で はなだんなさんが リッチくんの為に 連句に関する大事な事が
消えないように作って下さったコーナーが 連句のページの一番下にあります。
それが 「リッチくん用のメモ」で 華師匠にお願いして 入れてもらっています。
↑の↑は長いから 入るのかどうかが 心配です。

愉快 愉快。
ここのスズナリの美女は 全員 ストライクゾーンから外れ!
よかったあ・・・。私ひとりがハズレでなくって!!


Re: 思いつくままに Kiiちゃん - 2001/10/28(Sun) 23:52 No.1694  


もー
今日はレスせんと寝ようと思ってたのに・・・

>私ひとりがハズレでなくって!!

はいはい。そーそー(-。-;)

>カキコは いずれは消えていくのです。

イイよね潔くって(*^o^*)


Re: 思いつくままに なぞれん - 2001/10/29(Mon) 06:54 No.1695  


名月や 貧しき町を 通りけり           蕪村
めいげつや まずしきまちを とおりけり

名月や 病める人おも 通りけり          謎
めいげつや やめるひとおも とおりけり

「自句解説」
死の病床にあるものの恐怖は明日の、未来のプランが立てら
れない事です。健康な人なら考えもしない来月の名月が見ら
れないかも知れぬ恐怖。一期一会、今を大切にすればよいか
もしれないが、明日があってこそ今の名月を賞味できるので
す。貧しき町の人々が名月を鑑賞するゆとりがあるでしょう
か。

秋風に ちるや卒塔婆の 鉋屑           蕪村
あきかぜに ちるやそとばの かんなくず

秋風に ちるやそっぱの 飯の屑          謎
あきかぜに ちるやそっぱの めしのくず

[自句解説]
お笑いもの! 黒沢明の「用心棒」で死者が沢山出たため棺
桶屋があっちの陣営、こっちの陣営と注文取りに大忙しのシ
ーンがある。黒沢の作品の引き写しであるマカロニウエスタ
ンの荒野の用心棒にも同じアイディアが使われている。二作
品とも晩秋から初秋を扱ったもので、卒塔婆(墓標)とか、
棺桶は秋に秋風に相応しいようだ。

         謎


「聞かせてよ 愛の言葉を」 Kiiちゃん - 2001/10/30(Tue) 20:45 No.1696  


数年前に一度発表会に掛けたことがあるのですが
なにぶん若い時なので(笑)少しキーが高く
今度のレッスンで一音ほど下げていただく事になりました。
年内には仕上がると思います。
へへへへへ(^ー^* )  聞きに来て下さるのでしょうね?>謎様


Re: 思いつくままに なぞれん - 2001/11/06(Tue) 15:49 No.1726  


身辺雑記 2

旅に病み 夢は枯野を かけめぐる       芭蕉
たびにやみ ゆめはかれのを かけめぐる

ガンニャンで 弾丸は枯野を かけめぐる    謎
がんにゃんで たまはかれのを かけめぐる

癌に病み 針は肝臓を かけめぐる       謎
がんにやみ はりはかんぞうを かけめぐる

「自句解説」
 芭蕉の有名な句を借りました。ベトナムのガンニャン
で米軍とベトコンの激戦があった。枯葉剤を撒いた戦場
で弾丸が雨あられの如くかけめぐった。
 今まで実施したペイトという手術は肝臓に針を刺し
癌を探して見つかればアルコールという実弾を落として
いく方法です。ピンポイントで癌に弾を落とさねばなら
ないゆえ、コンピュータ制御されたエコーの監視下行う。
針が肝臓を駆け巡る痛さは諸兄姉の想像を絶するもので
す。

雲と雲 隙間に顔出す 秋日向          謎

クマツズラ 似合わず可憐に 秋に咲く      謎

柔らかく 芝桜にも 秋日向           謎

バイパスの 音も聞こえぬ 屋の庭        謎

枯木にも 葉散るなよと O・ヘンリー

色ずいて 名に似合わぬ ハナミズキ       謎

退院の 衣装思う 今朝の秋           謎

術中に 肩をいだきし 君が指
 暖かくまた 暖かかりし            謎

N嬢、芳紀正に二十と三、熟れなんとす。金曜日の最後
のペイトで私付きの看護婦に当たったのが彼女でした。
肝臓に針を刺し、必死に耐える私。上半身裸の私の肩を
彼女の白魚がまさぐる。緩やかなリズム。激痛が法悦の
境に入る。

                      謎



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