空にはほんのり 光りはじめたお月さま
こいでも、こいでも
家の屋根を越え こうこうと照るお月さま
一番星、二番星
夕風にはためくこいのぼり
小さい矢車 からから回り
家路を急ぐ自転車の上で
おじいちゃんの腕の間にはさまって
お月さま ついて来るよ
おうちの屋根だけ
動いてゆくよ
知らない通りを おじいちゃんは
自転車をキコキコ こいでいた
ハンドルの間にちょこんと乗っかり
幼い 幼いわたしが居た
お月さま まだついて来るよ
あ おうちが見えてきた
昔ながらの台所には おばあちゃん
ぐつぐつ、煮える
晩ご飯のおかず お味噌汁
ガラリとお勝手の戸をあけ 帰還
どうだった、涼しかった? と
いそいそ出てくるおばあちゃん
座敷の網戸から ゆるりと風
四つもついた こいのぼりがあったよ
お月さま ついて来たよ
そうかい、そうかいと
聞いてくれた おばあちゃんが
いそいそと迎えてくれることは二度となく
おじいちゃんは
古ぼけた自転車を勇ましくこいで
どこまでも続く坂道を登って行ってしまった
微笑むように満月の照らす彼処では
縁側の端の、手の届かない帽子かけに
赤い細綱のついた小さな私の帽子が
ずっとかかっているに違いない |