ブルームーン・ラプソディーズ

 

§ 竜たち


       青い月の下で
坂道の上に空 ふりむけば海
そのあいだで僕は歌っている
木々のざわめきが 遠い夏のように
頭のうしろに響いている

 青い月が昇るのを待って
 翼をうちふれば
 今 僕はここにいるのが分かる
 誓いも新たに

道の向こうに海 ふりむけば丘
そのあいだで僕は恋している
土のにおいが 過ぎ去った永遠の秋のように
目の奥までたちのぼる

 青い月が照らすのを待って
 憧れに舞えば
 ほら! 僕はここにいるのが分かる
 呪文も新たに

 月よ! 今宵の青い月よ!
 僕は火炎の想い うちあける

 月よ! 頭上はるかな月よ!
 僕は千年の想い うちあける

昼の向こうは夜 ふりむけば かすむ昔
そのあいだで僕は ほんのひととき ここにいる
――青い月下に眠りから覚めた千年の竜
  あのはるかな はるかな天体へ
by Hanna
 


      ブル〜ム〜ンラプソディ
想い映す月は何色
シャーベットグリーンティースプーン
うろこの一枚 一枚を
祭のためにと みがきあげた

 地球というボールを追って
 遊星軌道は古ぼけたレコードプレイヤー
 聞いて きしみの向こうから
 今月今夜の青い月の歌

想い染める月は何色
ハニーミルクキャラメルヌガー
両の眼玉の水晶体を
祭のためにと みがきあげた

 地球というボールを回す
 銀河はガタのきた全自動洗濯機
 見て 泡のとびちるその中の
 今月今夜の青い竜の晴姿

 聞いて あなたが大好きなの
 そのまるいまあるい笑顔のときも
 つの出し やぶにらみのしかめ面も

 見て あなたを1000個映すわ
 キラキラ 鏡板のわたし

想い燃える月は何色
メタリックブルーミッドナイブルー
心のひとかけ ひとかけを
祭のためにと宙に撒く

 聞いて 竜は月に恋をしたの
 今月今夜の ブル〜ム〜ンラプソディ
by Hanna
 


          月 夜
まあるい月夜だ トゥララ、ラ、ラン、ラ
みのも
水面にうつるよ、トゥララ、ララ。
竜眼石にとけて … kiss, kiss, kiss you
この世の果てまで 流れてゆけば

 僕らの国の国境を
 越えて消えてく友たち…
 目ざめぬよう かたくまぶた閉ざしたまま
 永久に夢見つづける

らせんの月夜だ テュリ、リリ、リン、リン
水面がゆれるよ テュリ、リリリ。
炎の色した竜眼石よ … kiss, kiss, kiss you
この世の果てまで 想いはのこる

 僕らの腕はすてきな翼に
 広げて越えてく結界線…
 竜眼見ひらき 世界をうつし
 永久に飛びつづける

炎が 炎が 水面に映える
ゆれてくずれる シャーベット色の月よ
     きん
あふれる黄金の盃のように

まあるい月夜だ ディン、ダダ、ディム、ダン
水面が波だつ ディダ、ディダディ。
火焔竜と海竜の結婚式 … kiss you
この世をつつんで 炎の洪水だ

翼でくるんだ創世だ
シャーベットの味の月夜に
竜眼石の見せた夢に出口はない
ノン・エキゼット
ノン・エグジスト
テュラ、ララ、ラン、ラ
キャルウ、キャレイ。




   *「竜眼石」… 竜の目。日光のもとでは緑、灯火
    のもとや水中では赤紫に光るとか。「キャルウ、
    キャレイ」は、キャロルのアリスに出てきた言葉。
 
by Hanna
 


      Bluemoon Dawn ――竜たちの饗宴
月の光が川面に満ちたら
ほら! 鳥も獣も はねとび踊るよ
密林の王者は年ふりたドラゴン
今 ほとばしる熱気とともに 姿を見せる

 立てよ立て 我らが王者
 空に先触れの飛竜 舞う
 今月今夜のBluemoon
 樹上をめぐる 黄金の竜よ

 すべてくびきを断ち切る者たちに
 すべて重力に逆らう者たちに
 すべて天へとあこがれる者たちに

 今月今夜のBluemoon
 願いを叶える竜たちの夜明け

暁の光 波間にさせば
ほら! 幾千のかけらになり消えたよ
おおわだ
大海の王者は年ふりたワイヴァーン
今 舞い終えて深い眠りに戻ってゆく

 我らが夢見よ 夢の中で眠れ
 天に虹色の鳥が啼く
 今月先夜はBluemoon
 みなそこ
 水底で寝返りをうつ太古の精よ

 すべて解放を願う者たちに
 すべて翼を広げる者たちに
 すべて天へとあこがれる者たちに

 来るべき次のBluemoon
 願いを秘める竜たちの夜明け

再び立てる その時が来るまで
僕らは日々の狩人さ
行こう! 行こう! 行こう!
by Hanna
 

§ くじら


        青い月とくじらの晩
花吹雪みたいに ガラスが沈むよ
時ならぬ お洗濯タイム
月もごしごし しゃぼんをつけたら
折からの風に ホラ
瀬戸物みたいに 青白い

 新月の晩に 羅針は乱心
 陸地めざして 船出しよう

紙吹雪みたいに ガラスが散るよ
時ならぬ お祭気分さ
くじらもわいわい はねて踊れば
折からの潮に ホラ
ぐんぐん波切り ごまだら模様

 青い月の晩に おヒゲは悲劇
 大陸さがして 船出しよう

 ヘイ ヘイ ヘイ ヒューリィ・ザ・ホエル
 大陸さがして 船出しよう
by Hanna
 


        くじらの夢

     おお
湾全体に巨きな薄青色のすりガラスのよう
に半透明な海の生物が泳ぎ回るのが
見えた
あれ・・・・・・・は
         ふ
巨きくなりすぎた斑のあるくじらだ
       がら
クッションの柄にしたいような模様の
波立っている  海は 沸騰するお湯のように
波立っている
湾のうえには 笑いすぎて
こわれそうな 青い満月

 シニョーレ シニョーラ ノストラダムス
 棚からびんが落ちて割れたら怪我をするから
 机の下に入りたまえよ
 海が
 海があふれ 大地はホットケーキのように
 ひっくり返される
 裏側もキツネ色に 焼けるまで

恐ろしいながらも美しいのはスローモーションのよう
に踊る二頭のくじらよ湾をせましと浮きつ沈みつ
泳いだ
あれ・・・・・・・は              バ ス
せますぎるのだ巨きくなりすぎた斑のあるくじらのお風呂には
息切れがして噴水よりきれいだ見とれてしまう
予言の成就だ  海は つめたいガラスの破片のように
とびちっている
湾のうえには 笑いすぎて
ひびいりそうな ガラスの満月

 シニョーレ シニョーラ キャプテン・ノア
 船酔い続けばランプもぐるぐる回って見えるし
 クッションにもたれて眠ったがいい
 海が
 海が フライパンの油のようにはねて
 ジュウジュウと
 くじらのソテー 斑入りのソテー

 シニョーレ シニョーラ ブルームーン
 ガラスの月はくじらの見た
 いつかの丸い海底の夢の日だ
 あの静かで眠たげな深い深い暗い水底で
 海はくじらでいっぱい
 ああなんてきれいな終末の光景
 湾岸ホテルのガラス戸ごしに
 僕は見ている ブルームーンの夜。





   *若いころ時々夢に見た、湾岸都市のビッグ・クラッシュ。
    阪神大震災はこの詩の数年後に起きました。息が詰まり
    そうなくじらは、この詩の数日前、北極海の氷の割れ目
    にとじこめられたくじらの救出作戦、というTVニュー
    スで見た光景からの連想です。
by Hanna
 


         くじらの夢 ♯2
   く
耳を喰われたような衝撃で
湾の上空 飛行機がぶつかった
おお
巨きくなりすぎた胴体を
蛇のようにくねらせて落下する

 海は沸騰するお湯
 浮きつ沈みつのたうつのは
 半分に折れたマリンジャンボの青い機体
 そのくじらは笑ってる
 歯を剥きだして嗤ってる

青く青く晴れわたる、 なか
湾はガラスの地球儀の内部

床がタップを踊ってる
湾岸には大津波 いつしか土砂降り
巨きくなりすぎた何者かが
駄々っ子のように泣き騒ぐ

 海は暗い油の鍋
 浮きつ沈みつ 沸きたつのは
 骨折したマリンジャンボの断末魔
 だがくじらは笑ってる
  みなそこ
 水底でいつまでも嗤ってる

暗く冥く透き通る、
湾はガラスの終末の夜




   *これも、阪神大震災の数ヶ月前に見た、
    夢の光景。この年は飛行機事故のニュー
    スが多かったと記憶しています。
by Hanna
 

§ ラナウェイ


        脱出の晩は雨
   まだら
ヒョウ斑のシャツきたシンデレラ
雨に香る髪
もういられない いられないこの港町
煙って消えてく唄――
一度きりのダンス・パーティ

 ゆがんだ人影が闇にとけて
 天気はますます下り坂
 海まで 涙を流せ
 迎えの船が来れるよう

タキシードにステッキの小粋なジゴロ
敷石にしみるニコチン
もういられない いられないこの港町
ふりしきる雨のカーテンコール――
二度とないラストの花火

 ゆがんだ人影がスポットライトに現れて
 お辞儀はますます速くなる
 海まで 唄を歌え
 迎えの船が来れるよう

楽屋裏で結びあった手と手
青い月をも引きよせる
ヒョウ斑の影うつして
ふたりで出かければ

 ゆがんだ郷愁が力場をつくり
 想いをますます閉じこめる
 海まで エンジンふかせ
 迎えの船に乗れるよう

桟橋でタップを踏んで
ステッキで突堤をひとつき
アンコールの声に背を向けて
ふたりでで出かけるのは

 夢の海
 雨 ふりしきる
 香るタバコ
 呼ぶ歌声

ダンスも終わりさ 今度こそ
カーテンコールも 花火も済んで
もう燃えつきた 雨に湿ったこの港町
そうしたら 二人で夢の海
雨ふりしきる 脱出の晩
by Hanna
 


         一千里の彼方へ
風がまわる
木々のあいだでまわる
落ち葉をふきあげ
上空のもやを払う
星がひかる
切れ切れの雲間でひかる
一千光年の時 かけぬけて
矢のように ここへ来る

 いま
 一千里の外から呼ぶ声がある
 わたしの中枢を呼ぶ声がある
 冷気に顔をさらし 天をみあげて
 わたしは それにこたえる

水がまわる
淀みのふちでまわる
落ち葉を引きこみ
水面の霧を舞わせる
色がきえる
もやに包まれ水底へ落ちて 色がきえる
一千の粒子に分かれて
やがてやわらかく 岸にあがる

 いま
 一千里の彼方をゆくひとがいる
 長い影をしたがえ ゆくひとびとがいる
 岸から森を抜け 丘をくだって
 わたしは あとを追う

 いま
 一千里の道のりをつばさで超えてゆく
 閉塞した世界は魔法のように解けてゆく
 そしてひとすじに続く無限級数の流れを
 わたしはさかのぼってゆく
by Hanna
 


       クリスマス・フライト
クリスマス・ライトのメイン・ストリート
少し外れて 坂 小道
夜の深淵 つらぬいて
ひびくは風の スクリーム

 きん
黄金のまあるいお月さま
りんと張ってる蒼い闇
とりどりネオンに 夜の雲
白くひらたく 浮きあがる

  つきぬけろ
  つきぬけろ
  満点の夜空 つきぬけろ

輪廻という名のエア・ロック
開いて飛び出す 亜空間
昨夜着ていた想い出を
ダスト・シュートに投げこんで

  かけぬけろ
  かけぬけろ
  天の廊下をかけぬけろ

クリスマス・ナイトにマジック・ショウ
杖を一振り 夢 展望
下界の睡魔を 振りはらい
ラスト・フライトに臨むとき

  とびこえろ
  とびこえろ
  へんげ
  変化の結界 とびこえろ

  まいあがれ
  まいあがれ
  スリー・Dから まいあがれ
by Hanna
 

       あほうせん
      阿呆船、漕ぎ出せ
ぼくの手を取り 死者も笑うよ
軽い笛吹き まだらの服で
チューリップの庭から 坂道くだり
眼下に砕ける 波濤に叫ぶ

子供たちは輪になって
町あかりのようにさざめきながら
竜の翼といるかの涙と
天上の花々とをつないで
首にかけた

 乱れたブラインドの向こう
 ゆれる細い月の夜に
 いちに、いちにと 手拍子うって
 みんなで漕ぎ出せ、阿呆船

きみの手を取り 天使も驚け
軽いステップ 水玉のリボンさ
クローヴァの原から 坂道のぼり
頭上に開けた 蒼穹にうたう

子供たちはおもいおもいに
銀河のように散らばりながら
石ころと哲学者の石と
 よみ
黄泉の花々 投げあげて
雨とふらせた

 光るブラインドの向こう
 しずむとがった月を追い
 アルパ、オメガと 掛け声かけて
 みんなで漕ぎ出せ、阿呆船

あおい宇宙の海を
海賊旗なびかせ 旅してゆこうよ

 僕のブラインドの向こう
 ほほえむ三日月にこたえ
 いつかは、いつもと うなずきながら
 夢に漕ぎ出す 阿呆船

ああ アルンエルス!
僕の阿呆船よ
来世から始源までめぐるめぐるぐるぐる

子供たちは輪になって
ぼくときみのようにうたいながら
隠れマントと魔法の杖と
いのち
生命の盃をかばんにつめて
船 漕ぎ出した

 さようなら! と
 あの青い月下に。




   *阿呆船:中世ヨーロッパの the ship of fools
    「愚者の船」(追放船)ですが、私が知ったのは
    80年代の英国ポップス・グループ「イレイジャ
    ー」にこんな題の曲があったこと、それから佐藤
    史生のコミックです。最近出た『天界の城』(佐
    藤史生)の解説(尾之上俊彦)によると、この船
    は「うつぼ舟」なのだそうで、河合隼雄『神話と
    日本人の心』に出てきた「ヒルコ流しの神話」や、
    別役実『そよそよ族伝説』シリーズも、ブック・
    サーフィンしてしまいます。
by Hanna
 


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