Cats alone Catalogue;猫づくし

いわゆる「猫好き」ではないけれど。


 

§ きゅーと・きゃっつ


      猫 月 夜 nekozukiyo

 白猫は、半欠けのお月さまを見て、
いいました。
「なぁんて、きれいなんだろ。あたい、あれが
ほしいな。くるくるころがして、ぴとぴとなめ
て、あそびたいよ」
 すると、や、ほかのなか
ま猫たちもいいました。
「きっと、いいにおいがするよ」
「きっと、おいしいよ」
「ぼくも、ほしいな」
「ぼくに、おくれよ」
「だめだめ、まだだめよ。もっとおっきく太っ
てからよ。そしたら空からとってきて、となり
町の白猫にあげるんだもん」
「memeのよくばり」
「memeのいじわる」
でもmemeは、彼氏猫のpopoといっしょ
に、レモンみたいなお月さまにじゃれてあそぶ
ことばかり、かんがえていました。

 何夜かたつと、お月さまはぴかぴかの金のま
りのようになりました。
「よおし」
白猫memeは、町でいっとう高いテレビ塔の
てっぺんにのぼって、せいのびしました。
「がんばれ、がんばれ」
「そら、もうちょっと」
塔の下には、pupuやniniや、なかま猫
たちがあつまって、しっぽをぴんとたて、ぐる
ぐる走りまわっておうえんしています。
 memeはあとあしで立って、まえあしをう
んとのばし、つめをむんと出しました。

 うん! うん! うん!
 むん! むん! むん!

「がんばれ、がんばれ」
「それ、あとすこし」
 お月さまのほうからは、雨あがりのスイカズ
ラみたいな、いいにおいがしてきます。まぢか
で見ると、なんてふるふるして、おいしそうな
んでしょう!

 うん! うん! うん!
 むん! むん! むん!

 つめの先がちょびっと、お月さまにひっかか
りました。やった! memeは力いっぱい、
ぶん! とひっぱりました。と、
「わあっ」
 月はぺりっと空からはがれ、memeのつめ
からはなれて、まっさかさまにおっこちました。

 ガッチャーーン!!!

そうして、こなごなにわれてしまいました。
「わあっ」
テレビ塔の下のなかま猫たちは、いっせいにと
びのき、びっくりして八方へにげてゆきました。

 さわぎをききつけて、おまわりさんが二人、
角をまがって走ってきました。
「なにごとだ」
「ややっ、これを見ろ」
 おまわりさんは、道路にこなごなにちらばっ
ている、金ぴかのかけらを指さしました。
「お月さまがおっこちた」
「こなごなにこわれたぞ」
「だれだ、こんなことをしたのは!」
 さあ、たいへん。おまわりさんたちが見あげ
そうになったとき、memeはぱっと空にとび
あがりました。そして、できるだけからだをま
るめて、しっぽもかかえこみ、なんとかお月さ
まにばけました。
 おまわりさんたちは、テレビ塔の上に、やけ
にふわふわした白い月がうかんでいるのを見ま
した。
「なんだ、ちゃんとあるじゃないか」
「ほんとだ。清掃局にでんわして、このせとも
のをかたづけてもらおう」

 となり町では、白猫popoが、やくそくの
場所にすわってひとりごとをいっていました。
「おそいなあ、おいら、ずっとまってるのに」
 すると上のほうで、だれかがpopoのなま
えを呼んだような気がしました。
 popoが見あげると、なんだかやけにふわ
ふわした白い月が、うかんでおりました。
「あれっ」
 よく見ると、それは、彼女猫のmemeでは
ありませんか。でもmemeは月にばけている
ので、popoのところへおりてゆけません。
しかたなくpopoはあいさつしました。
「こんばんは、おいらに会いにきてくれて、あ
りがとう」
そして、空にむかって投げキッスをおくりまし
た。
 やけにけばだった月は、こんどはすこしピン
ク色になったようでした。

 一部始終を見おろしていた、町でいっとう高
いテレビ塔は、にっこりわらって、電波の声で、
こんなうたをうたいました。
         ◇
けばだった、春の夜半の白い月を
片目でながめてるのはだあれ?

──猫はまっすぐに月を見るってことがない
  上目づかいに やぶにらみ
  よこ目流し目 おねぼけ目
  「みょーみょー みょーな月だよ
  せっけんみたいに白い
  スポンジみたいにやあらかい」

そそけだった、春の夜半のお月を
片目でながめてるのは白い猫

──その時だよ 月がちょびっと身動きしたのは
  もぞもぞ くしゅくしゅ
  と思ったらお月 と思ったら白猫
 「みょーみょー みょーな月だよ
  おいらみたいに白い
  おいらみたいにやあらかい」

 あったかい、春の夜明け前に
 白い月は空からおりてきて
 白猫がふたあつ、ハニームーンだ
by Hanna
 

§ まじかる・きゃっつ


         波止場を 見たか
波止場を 見たか
降りつもる 雪のように
結晶した孤独が居座る夜
         め
 アイスブルーな瞳をして
 そいつは
 深淵の瞳をして
 ぼくの内部に沁みてくる

波止場を 見たか
ひたひたと 満ちる海のように
猫のかたちをした孤独が膨らむ夜
by Hanna
 


       アイスブルーな猫の夜
あなたという名の猫を
ぼくは心に飼っている
アイスブルーな夜は
まじろぎもせずにぼくを見つめ返すよ

 一種の持病みたいなものだ
 これはもう  なか
 いつもぼくの内部に居るのを
 なだめすかしてねむらせる

あなたという名の猫が
ぼくの波止場に棲んでいる
つめたい月夜にはふく
だまってどんどん脹らんでいくよ
     しこ
 一種の痼りみたいなものだ
 だんだんと
 まっ白なやわらかい毛が
 ぼくのむねやのどにつかえる

あなたという名の猫は
ぼくの心の波止場に居る
つきとおるような孤独の夜に
ひそやかに居座りつづける

いとしくもくるしい大きな白いぼくの猫…
by Hanna
 


           あおねこ

      ここには一疋の青猫が居る
さうして柳は風にふかれ、墓場には月が登ってゐる。
            ――萩原朔太郎『青猫』


 やさしく はかなげな影は その顔に
 うめこまれた、いたいような宝石の瞳
 しのびゆけば ゆれる ゆれる 名残りの細い尾
 背後の月に電波を送るか
 あおねこよ
 今宵 おまえの瞳は
 つめたくまるい涙 ながすか
             ぼせき
 人影も たえてひさしい墓石の根かたに
 名も知れぬ 花ぞ咲く

               ――青猫に寄せて
by Hanna
 


      真夜中の町角 〜cats' eyes
遅い月は レモン月
アイスクリームみたいに冷たい光
とめてあった車のバックミラーの中で
       きん
ノラ猫の目 黄金に光る

 真夜中の町角で
 夢は小さな黒い仔猫よ
 月光あびて じゃれあう
     きん
 小さな黄金色の宝石たち

雲間にはためく ペガサスの翼
ゼリーみたいにゆれる光
とめてあったはずの車が走りだしたら
アスファルトに重なる 影のダンス

 真夜中の町角で
 夢は小さな黒い悪魔よ
 星あかりあびて 踊りくるう
 小さな蒼白い欲望たち
by Hanna
 

§ すましねこ


         坂道の猫
なくのはだれ 夕闇の坂道で
ハタキみたいなベージュの猫が
やってくる
気どっているのか
ためらっているのか
一歩ずつ やってくる…

 ふわふわハタキ
 芯はあったかくしなる肉
 こちらをけっして見ずに
 ひとの足のあいだで えがく八の字

 のの字 のの字じゃないのよ
 おまえ ずるい子
 なんとかお言い

すりよるのはだれ 夕闇の坂道で
イモムシみたいな太った猫が
じゃれてくる
うれしいつもりか
いやいやなのか
ゆっくりじゃれる

 おい 猫よ
 わたしはおまえを知ってるぞ
 ひとりよがりで うそつきで
 なのに坂道でひとを待ちぶせる

 くるり くるり月のない宵
 おまえ さよなら
 闇はひとりがあたたかい
by Hanna
 

§ ねんねこ・みゅー


       猫のひるね
おそいひるねから醒めてのぞけば
松のねかたで ふわふわの猫がまるくなってる
オレンジ色の猫さ おいしそうな猫
ジャムパンの夢 見るかしら

 あいつも首筋にすこし汗などかいているかしら
 薄日もささぬ 熟した午後に

おもいひるねから醒めてのぞけば
猫ももそもそ 身づくろい
まだ半分ねむいさ おいしそうな猫
パウンドケーキの夢 見るかしら

 あいつもひげ先に海など見えているかしら
 小雨もふらぬ 淀んだ午後に

  Let's go, わがまるいふとった猫や
  オレンジ色さ なんといっても
  ぴょい、ぴょい、ぴょい。
  へいの上にのっかって 僕も
  港 見おそろそうや。

 あいつも耳のつけねに雨など感じているかしら
 松のねかたは だれも来ぬ

  Let's go, わがまるいふとった猫や
  オレンジ色さ なんといっても
  にゃお、にゃお、にゃお。
  へいの上にのっかって 僕も
  海の歌 歌おうや。
by Hanna
 


        薄ぐもりの日曜
ちいさな虫たちが窓辺をとびかい
時々 鳥影がよぎる
雲は何ということもなく 空を漂い
秋の透き通った日差しも消えた
山からおりてきた鳥たちは
世間話に興じているらしい

 雲居の彼方 のぼりつめて
    たま
 輝く球を手にすることは
 どうしても必要なわけじゃない

茂みの中で猫は雲のようになり
さっきから昼寝している
からすの間の抜けた声がし
秋の繊細な光の綾も消えた
頼りなげな蝶たちは
せっせと踊り歩いているらしい

 峰の頂き 雪深き宮居に
 輝く球を求めることなど
 どうしても必要なわけじゃない

 自由と戦いとを得るために
 はがねの刀 鍛え直すことなど
 どうしても必要なわけじゃない

薄ぐもりの生暖かな晩秋に
手をのばせば届くほどのところの
草の実でも取って頬ばりながら

ふやけた白猫のように茂みに寝ている

冬のことなど いまさら
考えたって 仕方はないさ

 雲居の彼方 のぼりつめて
 輝く世界 手にすることなど
 そんなに必要なわけじゃない
by Hanna
 


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