銀河のメリーゴーラン
ラン・ラ・ラ ラン・ラ めぐるよ めぐる ラン・ラ・ラ ラン・ラ まよなかの 遊園地 回転木馬のスタンドは がたん がたん ぎい── ゆっくり 動き出します タン・タ・タ タラ・ラ めぐるよ めぐる タン・タ・タ タラ・ラ つばさが はえた ぎん・ぎん・ぎんがの メリーゴーラン 赤い星 青い星 とどくまで ラン・ラ・ラ ラン・ラ のぼるよ のぼる ラン・ラ・ラ ラン・ラ 天の川の ところまで 生々流転のスタンドは がたん がたん ぎい── ゆっくり のぼっていきます りん・りん・りんねの メリーゴーラン そら とき 赤い宇宙 青い時間 こえるまで タン・タ・タ タラ・ラ めぐるよ めぐる タン・タ・タ タラ・ラ のぼるよ のぼる
銀河のメリーゴーラン 2
あまの川を過ぎ たくさんの星々を過ぎた ゆめの木馬にのって くらい くらい夜に 泣きぬれた目で ゆめのつづきを見ている ひかりは点々と 名もしらぬ遊星たちをてらしている とき 時間の川を過ぎ たくさんの星々を過ぎた ゆめの木馬にのって ふかい ふかい夜に 涙にぬれた手で しっかりとつかまっている ゆくてに点々と ほたる火のような星たちが見える そして いくたびも いくたびも 宇宙を めぐる やみは うしろへと うしろへと 頬をなで 流れる あまの川を過ぎ たくさんの星々を過ぎた 時間の川を過ぎ たくさんの思いが消えた すべての星 のせて とまらぬ 銀河のメリーゴーラン その上で いつまでも いつまでも ゆめの木馬を駆る
夜の回転木馬
くるくるまわる 音もなく つまびくギターの夢のなか くるくるまわれば 景色が流れる 誰も 誰も見えぬ遊戯場 まわれ まわれ 果てない青を さびしいひと乗せて 木彫りの馬よ まわれ まわれ 夜どおしに 星もさざめく 秋の夜 くるくるまわる 霧のなか ひそかなフィドロの節にのせ くるくるまわれば 浮世がめぐる 誰も 誰も見えぬ遊戯場 まわれ まわれ 死の影も忘れ さびしい日々乗せて 白塗りの馬よ まわれ まわれ 天がけるごと のぼって おりて 永遠に
月とハモニカ
だれかが ハモニカをふいている 小川が さらさらとながれ こ 木の葉は 見えない荷物つんで 海までくだる 運搬船よ まるい月が のぼるね 野原は フシギにひかっている 土手の上には 一匹のいたち 黒いひとみに さざなみうつし 空をみあげる さみしがりや まるい月が わたるね 夜はふけて、しんしんとふけて 青い茎はゆれて、ふらふらとゆれて まるい月が てらしていたよ だれかが ハモニカをふいている 小川が さらさらとながれ 葦のしげみにねむる かるがもの 夢路ははるか 海のはてよ まるい月が しずむね だれも しらない 野原に まるい月が 落ちていたよ 二度とない 夜ふけだから まるい月を ひろいにゆこう
大きな樫の木
大きな樫の木 どんぐりつけて 森のはしっこに 立っていました 秋ともなれば どんぐり落とし 下を歩いた猫は災難でした 夜ともなれば 満天の星 どんぐりに宿り きらめきました 大きな樫の木 夢みたい 光り 宇宙のすみに 立っていました 無限大の宇宙 樫の木は立っていました 無数の星々 ゆたかに実って 大きな樫の木 どんぐりつけて 森のはしっこに 立っていました 時はすぎさり どんぐり落とし 下を歩いた猫は幾代め 無限大の宇宙 星はきらめいていました 永遠のむかしから 時はめぐって・・・
深い森と水のにおい
木々の夢を教えましょうか 霧雨のほのぐらい森です―― けれど つめたくかたい肌の下を たしかにかよう命の水音が 聞こえますか? もっと耳をすませてみてください 年輪をさかのぼってゆくと 樹芯に秘められた太古の記憶が 語りはじめます 聞こえますか? 今度は目をつぶって触れてください ほら、音もなく 細い無数の根の のび入っていく 暗黒のやわらかな大地 その奥底に流れる地下水脈 感じますか? 木々はそこから立ちあがり 木々はそこからのびあがり あなたを頭上はるかな高みの 天上の宴にさそっています さあ、大きく深く息を吸って わたしの森へ ようこそ *むかし、雑誌「詩とメルヘン」の 「おりたたみ画廊」コーナーに掲載 された作品です。
雪どけ
雪が降れば うず 野原は埋もれて 鏡のように光る 冬毛の動物たちが その上で踊る 休まず踊る タ・ラ・ラと踊る 雪が降れば 野道は閉ざされて 城壁ができる つかの間の安堵感が その中で踊る 休まず踊る タ・ラ・ラと踊る 春が来る 春が来る 鳥はみな去った 滅びの春が来る 白い雪の下から 去年の骨があらわれる 白い雪の下で 忘れられていた邪気がよみがえる 冬が死ぬ 冬が死ぬ 鳥はみな去った あやかしの春が来る 白い雪の下から 見せかけの新芽が芽ぐむ 白い雪の下から 今年も流れる鮮血の小川 雪がとければ むき出しの地面を 小川がけずる 滅びの来るのを せせらぎは待ちかねて 休まず踊る タ・ラ・ラと踊る わら 嗤って踊る タ・ラ・ラと踊る
馬 あゆむ
ずんぐりと 馬が荷駄を曳いている ずいぶん 怠惰な馬だ しっぽなんて すり切れている とし 齢はわからないけれど すべての花のひらく前から ずっと荷駄を曳いていたらしい あるき方も どんよりしている のんべんだらりとしている 思い出したように ときどき エンコしたくるまのように 鼻を鳴らす とても ねむそうにしている ゼリーの海の中を かきわけながら進むとみえる ぼうん ぼうん 遠くで銅鑼が鳴る ぱふ ぱふ ぱふ 馬はたてがみをゆする それから 目の前をうるさい虻に向かい ばあ とあくびをしてみせる そのとき涙がひとつ ほおをつたって かわいたほこりに ぽっつり落ちたよ ――とろり とけた昼すぎに わたしの手は 脚は 夢に向かって 動き出すのだよ からだ はかなげにうすれた 肉体を離れて 空 つきぬけていくのだよ ゆっくりと 馬が坂をのぼっていく ずいぶん 怠惰な馬だ 他の馬は とっくに行ってしまった ほつり と独り取り残されたけれど それに気づいたそぶりも ないようだ 荷物は ぶくぶくふくれている ねずみ色の よごれた布らしい 何が包まれているのか 知らないが ろくなものでも あるまいて 道に沿って だるだると なめくじのように進むとみえる ぶうん ぶうん 遠くでダイナモの音がする かっこ かっこ かっこ 馬は坂をのぼる それから とつぜん道がとぎれたので ぼう と目を見開いて立ち止まる そのとき ゆるんだ夕方の風が さあ と前髪を吹き上げたよ ――ふんにゃり 疲れた暮れ方に わたしの手は 脚は 夢にむかって 動き出すのだよ はかなげな うすれた肉体を捨てて 星のように かがやくのだよ
§ ひとりあそび
夢の窓を覗いてご覧
ひとみが 人見知りして見ることを拒むときには しずかに心をからっぽにして 目をつむってご覧 見えてくるはず 点滅する光と 走る幾本もの稲妻 それがさあっと引くと 黒と金茶色の アラベスク模様 廻り灯籠のように 時が巡っているのが 遊星のように 季節が膨らんでいるのが パルサーのように エネルギーが放たれているのが 銀河のように 夢が広がっていくのが ひとみが とみに涙でうるおってきたら しずかにフィルムを巻き戻して そっと目をあけてご覧
思い出ショップ
風のないしずかな、 あかるい薄ぐもりの午後、 あなたの心の七丁目あたりから、 自転車に乗って、 車輪まかせにいらっしゃい 町はずれの、 海へと続く家なみの、 とある曲がり角 夕焼け色の壁が目じるしです ショウウインドウはありませんが、 中に入れば、 いろんな物をごらんいただけます 子供のころ拾った貝殻とか、 昔なくしたお守りとか、 はじめて買った宝くじ、 旅先で聞いた古い歌、 何年も前の日記帳の三ページめに挟んだ写真、 とか、 前の前の前の携帯電話に消え残ってた留守録、 とか 石畳の坂道をそっと自転車でくだって、 ブレーキを鼓動のようにきしませながら、 おいでなさい 小さな扉はあるけど、 鍵もチャイムもありません どうぞそっと息を吐いて、 こんにちはと扉押して、 ええ、そう、ようこそ思い出ショップへ
完ペキ半熟卵
ココロに迷いのある午後は 完ペキな半熟卵をひとつ つくりましょ お鍋に布巾を敷くのです なければピンクのハンケチを 塩ひとつまみ入れるのです 割れて流れ出たりしないよう わたしのアタマのひびわれからも 脳ミソがにじんで出たりしないよう ココロがぼんやりする日には 完ペキな半熟卵をひとつ ゆでましょう コンロに火をつけ ころがすのです あっちへコロリ こっちへコロリ お湯が沸きたつ手前まで くるくるクルリ こんコロロ 胸にぽっかり浮かぶ思いを あてなくくるくる もてあそぶよに ココロがすっかりカラの日には 完ペキな半熟卵をひとつ たべましょう とがった方を下に立てるのです 小さなピンクのエッグスタンド てっぺんをジョキリ切り取ったら カラが日にすけるまで きれいにたべましょう ココロのスプンでさらうのです 光を通して白く透くまで
§ ヤポー姫はうたう
カトピンの島
カトピンの島には ふしぎな うおが居る 町の地図 さかさに雲にうつして さあ出かけよう モナモナは大地の子 九度 潮が満ちると 小さな手が生える ヤポー姫にたのんで 見せてもらってごらん ヤポー姫は三人の分身と一緒に たったひとりで カトピンの島でくらしてる ザムシャの実は モナモナの先祖 九度 潮が満ちると 順序よくお日さまになる ヤポー姫にたのんで 一つ もいでもらってごらん きみにもしその気があるなら ヤポー姫のおむこにだってなれる カトピンの島には ふしぎな うおが居る 町の地図 さかさに雲にうつして さあ出かけよう
楽園・ブラックホール
ここ、カトピンは楽園の島 どんな素晴らしさもなくならぬ 美わしの魚たち 不老長寿のザムシャの実 変わらぬ海の青 変わらぬ空の青 決して年をとらないヤポー姫 この世のだれより魅力的 ここ、カトピンは不滅の島 色あせることのない木の葉のように 歳月がふりつもる 甘い安らぎはうすれることなく 永遠に心を灼く 際限なく舞いくる 決してとけない雪のごとく 歳月はふりつもり続ける 久遠なるカトピンよ 歳月の木の葉はつもり、つもり、つもり… けだるい安らぎはつのり、つのり、つのり… ああ蜜のように重い カトピンの重力も ヤポー姫の腰をまげ老いさせることはない ここ、カトピンは夢の島 色あせぬ日々の安らぎの重みで 内側へおちこんだ 漏斗のように 渦潮のように 裏返るカトピンの島 とき 裏返るカトピンの時間 決して元にもどらぬ穴の中へ カトピンはひとりでに封じられた 不朽なるカトピンよ もうだれにもたどりつけぬ、つけぬ、つけぬ… もうだれにも見えぬ、見えぬ、見えぬ… ああ へだてられし楽園 カトピンの無窮よ ヤポー姫のつのる孤独をいったいだれが知ろう
ヤポー姫の邪魔を
ヤポー姫の邪魔をしないで 彼女は忙しい 夕焼けをうつす暇もない モナモナの洗濯も終わらない ヤポー姫の邪魔をしないで 彼女は四人とも取り込み中 船の煮立てが間に合わない ザムシャの実を吊す日も過ぎた いろいろのことで ヤポー姫の八つに分かれた心を いっぱいにしないで 彼女は今にも泣き出しそう ヤポー姫の邪魔をしないで 彼女はお会いできません 朝焼けの絵付けもままならない カトピンに居ることもできない