ポート・カブミンダー・ストーリー  Port Kab=Mindar Story

いつも思い描いてきた、架空の港町をめぐる、物語と詩


 

§ ポート・カブ=ミンダー(SF version)

 ハイオルン共和国・イルスレイの北緯26度、東経0度

に位置するポート・カブ=ミンダーは、なだらかに連な

る丘陵地帯と海との間に広がる、新惑星連邦で最も古い

港町だった。国内一の商港をかかえ、商取引の一大中心

地であるとともに、一級軍港も同居し、常時十数隻の空

母・宇宙船を養っている。この町はまた、東の奥まった
            スマッグラー
湾に延びる民営港の突堤に密貿易船まがいの商船やリー

ンタイム系のいかがわしい外国船を出入りさせている、
    ブラックポート
国内一の暗黒港でもあった。

 町並みも東と西とでは差があって、特に東区の南、海

抜0メートル地帯はスラム化した古いビルがごちゃごち

ゃと肩を寄せ合い、亡命者風の外国人やきな臭い「組織」

の人間のたむろする港湾へとなだれこんでいた。かつて

は衛星開発の好況の花形として栄えたこの一角は、街が

発展していくにつれていつの間にかフォールン・シティ
                     ダンプヤード
と呼ばれるようになり、繁栄する都市の一種のはきだめ

としてここ百年間、「陰」の役割を果たしてきた。今で

は、官公庁や商社の立ち並ぶ西〜南部の街区や、北部の
         マグネトレイン
閑静な住宅街からは高速鉄道と幾筋もの大通り、それに

沿って帯状に延びたメリー・ゾーンによって完全に隔て

られている。このメリー・ゾーンこそは、プレイガイド

のトップに掲げられる、最もにぎやかな歓楽街だった。

ファッションビルに3Dシアター、AV局など休みなく

活動を続ける文化の一大中心地。ここへは街の東側、西

側、さらに外国からも、あらゆる刺激好きな人間、観光

客、芸術家、各界の有名人が訪れた。

 マグネトレインのステーションは地下八階に、モノレ

ールバスの停留所は地上二十階にあり、ヘリポートつき

の広いロータリーで演奏される流行歌のステージに若者

が群れ、クラブでは毎夜新しい娯楽が催され、総合芸術

家たちのスタジオでは幾つもの流行がひっきりなしに生

まれたり消えたりしていた。ここは帝王星外で最も古い
                  クラッシュ
歴史を持ちながら、一度も戦争や経済的破綻を経験した

ことのない場所だった……
by Hanna
 


    丘の上から――‘Kab-mindar Down’
安らぎの港に夕べの霧がたつと
灯台の点滅も 星々の輝きも
やさしい あの まばたきのように

 遠いむかし ぼくをひざにのせて
 この丘に すわっていた ひとがいた
 髪を風にゆすられながら
 港の灯を指さしていた ひとがいた

丘の上は今日も風が吹いて
海岸通りのネオンも 昇る月の光も
なつかしい あの ほほえみのように

 遠いむかし ぼくは小さなうでで
 この丘から 港町を抱いていた
 髪を風にゆすられながら
 そんなぼくを見つめていた ひとがいた

 出てゆく船に あこがれて
 やさしいひざから 立ちあがってから
 どれだけの季節 どれほどの思いがさすらったろう

安らぎの港に夜のとばりがおりると
灯台も星々も ネオンも月光も
まるで今 ここに あのひとがいるように
by Hanna
 


    Rain Comes down between U & I
 ぬれた石畳の町を
 ヒールの靴音が歩いている
 通りを渡り 角を曲がり
 行き交う車やざわめきに
 まぎれて消えそうになりながら

  You're lookin' for someone,
  Phoebe おれは店じまいした
  テラス・カフェのテーブルで
  通り過ぎる足音 聞いている

  I'm waitin' for someone,
  Phoebe 煙草の匂い おまえは
  知っているはずなのに
  それでも 通りを過ぎていく

ふたりの間に雨 カーテンのようにゆらめく雨

 ぬれた薄緑の草が
 ヒールの下でかすかに薫る
 坂道のぼり 公園をぬけ
 たれこめる霧で消えそうな
 丘の頂上へ 草の薫りが続く

  Who're you lookin' for,
  Phoebe? おれはコインマシンで
  小さなドライジンを買い
  港の方へ坂道をおりてゆく
  
  Who am I lookin' for,
  Phoebe? 丘の上との間には
  何層もの雨 港に船が待つ
  多分 汽笛が聞こえたろう

ふたりの間に雨 カーテンのようにゆらめく雨

Rain comes down between U & I
by Hanna
 


       丘へのぼる 〜ASCENSION
かわらぬのは木々 緑
歩いてゆく 霧のなか
わたしのまわりでまわっている
色とりどりの 世界

かわらぬのは空 白く
歩いてゆく 石だたみ
わたしのまわりでめぐっている
      とき
天然色の 時間

 ああ つめたく青い水にだかれ
 あかるくもえる火にてらされ
 なにもわからず 歩きはじめた
 白いちいさな わたしのすべて

かわらぬのは大地の 緑
のぼってゆく 霧の丘
わたしのまわりでうたっている
たくさんの 声・声・声

かわらぬのは空 澄んで
のぼってゆく 石のきざはし
わたしのまわりはひらけてゆく
わたりゆく 風・風・風

 ああ つゆにぬれた草をふみ
 霧のうえ 丘のいただき
 ふりかえれば すべてが見えた
 始まりの海から 町と霧をとおり

かわらぬのは天 高く
とんでゆく 夢のなか

 ああ つめたく青いエーテルをこえ
 くらく広がる宇宙にだかれ
 いつしかしずかに ひかりはじめる
 白いちいさな わたしのすべて
by Hanna
 


    沈黙の海――‘Wimming Cross83番地
だれもいない 部屋に帰れば
影だけが 褪せた壁におどる
窓の外には古ぼけた通りの風景が
いつも おしだまり
笑うでもなく 怒るでもなく
なにかに永久に耐えているように

ここにかえると ただ
からだを丸めて
忘却の流れにまかせ 眠りたくなる
沈黙の繭のなかで
ひしひしと さみしさにとりまかれて

かつて雑多なにおいで満ちていた
今は 澄み切った部屋
こごってしまった古い古いかおりが
いつも淀んだまま
悲しむでもなく 諦めるでもなく
なにかを永遠に待っているように

ここで眠ると ただ
夢だけを見て
 とき
時間の流れにまかせ おのれを忘れ果てる
沈黙の浜辺でひとり
ひたひたと寄せる波に顔も手足もひたされて

 いつの日か 目ざめ
 いつの日か 立ちあがり
 いつの日か 荒れ出した海 こえてゆく
by Hanna
 

地図をクリックすると物語に飛びます
 

§ アトランティスの記憶

        おうむ
        鸚鵡貝の舟
    Nautilus Pompilius
    太古の海から
    同じ歌 うたいつづけ
    Nautilus Pompilius
    すき通る青き眠りに
         み
    同じ夢を視つづける

     長き髪 ゆらゆらと
     貝に眠る王女のひたいには
     銀の星の刻印
     今は亡き王国のしるし

    Nautilus Pompilius
    ゆれゆれる箱舟よ
    最後の王女を乗せて
    Nautilus Pompilius
    幾千万の月日を越え
    南海にたゆたいつづける

     長き髪 ほどけたまま
     貝の柩に王女は眠る
     銀の星 水底まで射せば
     まぼろしの王国よみがえる


    *鸚鵡貝(Nautilus Pompilius)は、アンモナイト      の親類で4〜5億年前から海を泳いでいる「生きた      化石」。本物は図鑑をご覧くださいv
by Hanna
 


          青いドーム
青く透明なドームの中に
不思議な光たわむれる
ひとの昔ながらの夢を
まるい閉鎖世界にとじこめて
都会の雑踏を闊歩するうちに
忘れられてしまった
小さな密閉ドーム
雪が降り 花が散り
 とき
時間はうつろい去って
はや知る人もない

青く小さなドームの中に
魔法の力がひそんでいる
ひとの昔ながらの夢は
積み重ねられた時間の中で
香り高く発酵したまま
忘れ去られてしまった
青みを増す密閉ドーム
雨が降り 大木も朽ち
峰々はけずられくずれて
はや見る人もない

幾世もの年月をへて
青いドームに光たわむれ
深いみなそこで
ひとの主なき夢は
結晶する
by Hanna
 


       太古の浅瀬
  陽の光 射しこむ
  太古の浅瀬で
  乱舞する無数の者たち

   失われし大陸の夢 とかして
   海は揺れつづけ
   無数の夢のカケラをはぐくむ

  陽の光 射しこむ
  青緑に照らされた回廊を
  ゆきかう無数の者たち

   失われし人々の夢 かくして
   海は揺れつづけ
      いのち
   無数の生命のカケラをはぐくむ

  いつしか奇妙な生き物たちが泳ぎ
  いつしか脚が生え 陸に上がり
  神々に愛でられし夢が 再構成される

  月あかり 射しこむ
   と わ
  永遠の浅瀬で
  生まれくる無数の者たち


    *小さな水槽に大発生したミジンコたちに捧ぐ。ミジ
     ンコって太鼓腹の小人のよう。
by Hanna
 

§ アルセンツィオルネ(FTversion)


         廃墟の祈り
    しろまち
 崩れた城市 瓦礫を踏んで
 乙女らの亡霊 舞い踊る――
 ここは かつて 雲にそびえた
    さと
 栄華の郷よ アルセンツィオルネ

 打ち寄せる波 岩々を刻み
   かみ         な
 その昔をしのんで もだえ哭く
 ここは かつて あまたの船の憩った
    とまり
 安らぎの泊よ ミンダー・レボック

          さだめ
  ああ はるかなあの運命の日
  海鳥は歌い 波は眠り
          ひらめき
  だが 神々の白い閃光は
  一瞬にして丘の上を燃えたたす――

       かえ
  おお 時よ還れ はるけき彼方
  銀の帆に風はらみ 出ていった船は
  今にいたるも 戻らない
  そのごとく
  あまたの世々は 夢幻劇のように去り
  我のみ石化する、風景の片隅で

 かいじん
 灰燼の宮殿 傾く列柱ごしに
      ひ
 血ぬられた陽は再び沈み――
 ぬ ば たま    いのち
 射干玉の夜に 生命のごと 星は燃え尽きる
いにし
 古えの都よ アルセンツィオルネ

                めぐ
 ゆがみたわむ 宇宙律 果てしなく巡り
       くう
 やがて 時と空とは 夢むすぶ
 その日まで 嘆きの声ひそやかに唄い続ける
 無人の港よ ミンダー・レボック

  おお時よ巡れ はるけき彼方
  金の月 昇り 汐満ちて 都市をのみこめば
  たわんだ宇宙の糸が切れる
  その日まで
  あまたの世々よ 夢幻劇のごとく逝け
  我ひとり待つ 輪廻の片隅で
by Hanna
 


         運命の星
何も持たず 靴さえはかずに 僕は
丘へのぼってゆく 独り ただ独り
風が 吹き
草が ゆれる
またもう一度 夜が訪れる
寝ころんで待つ 破滅と至上の歓びを
ともにもたらす 星の出を

さあ立ちあがれ 風に身をゆだね踊れば
ステップにあわせ 世界はゆれる
Hold me, Hold me とけてゆくあの氷のように
僕らの Heat で 世界をとかせ

何も信じず 靴さえはかずに 僕は
神殿をけがしてゆく 独り ただ独り
風は 吹き
柱が 倒れる
またもう一度 夜が訪れる
天をあおいで 破壊と聖なる再生を
ともにもたらす 星を待つ

さあ目を醒ませ この身はふるえる
ステップにあわせ 世界は消える
Hold me, Hold me しびれる星の輝きよ
そなたの光で 世界をとかせ
by Hanna
 


         町をあとに
つめたい冬の風に別れをつげてゆくの
「どこへ ゆくの」
紫がかった寒い町をあとに
とおく 港の笛が
雨がはねている石畳をふんでゆくの
とおく 港の笛が
「どこへ ゆくの」

 夢みるころにたちかえっても
 風の吹く丘にはだれもいないから
 「どこへゆくの どこへ」
 うすっぺらい月がさみしそうにたずねる

つめたい冬の風に背中をおされてゆくの
「どうしてなの」
半透明に雨の降る通りをあとに
かすかに 六弦琴が
火灯りにけむっている門をくぐってゆくの
かすかに 六弦琴が
「どうしてなの」

 夢みるころにたちかえっても
 風の吹く谷間にはだれもいないから
 「どうして ゆくの なにを」
 ほそい草の葉がつゆにぬれてたずねる

風の吹く日に丘にのぼるの
風の吹く日に谷をさすらうの
月の光と草の葉のつゆと
そして夢みた まぼろしと

いつか波だつ海にゆくの
青く青くそまってとけるの
みなそこに沈んだひとびとといっしょに
さめることのない 夢にあそぶの
by Hanna
 


          うたかたの街
アルセンツィオルネは海の都
夢見ただよう港町
白い神の座 星見台
歳ごと訪なう行商人

 そのまま化石に圧し固め
 わたしの記憶の薄織よ
 かなしい月日の水底で
 しずかに笑うおもいでよ

アルセンツィオルネは古き街
切なくまどろむふるさとよ
青い瓦屋根 曲がり坂
日ごと燃え立つ 祭祈壇

 そのまま地層に積み重ね
 わたしの心のにこごりよ
 さみしい月日の水底で
 しずかに揺れる追憶よ


 嘆けとて 嘆けとて
 波は寄せては泡残す
 嘆けとて 嘆けとて
 青くとけゆく深空よ
by Hanna
 


         丘のうえで
波の音 聞きながら
まどろみつづければ
小さな はしけが 雲をはこぶ
安らぎの丘のうえ
時の流れは 忘れ去られて

ざわめく草 聞きながら
ねころびつづければ
下界の街は 青い水底
安らぎの丘のうえ
潮の流れは 忘れ去られて

 夢みて さめて
 幾とせ すぎた
 風 旅していく この丘よ
 いつまでも 魂の
 ねころびつづけるところ

 夢みて さめて
 いくよ
 幾代が すぎた 
 風 吹きやまぬ 波の唄よ
 いつまでも 魂の
 いこいつづけるところ
by Hanna
 


自作詩のページ(Hanna's Poemoon)へ / ホームページに戻る