女神の午後 2            .

 〜君島美知子さんの絵によせて        .

   夢の実ジャムのレシピ
オクタゴン
八角形の厨房に
キャット・ナップ
午睡の夢

メイ・デュウ
五月の露を半パイント
アニス クローブ
八角、丁字、ローズマリー

 ふわり 追憶の海の香につつまれ
 くらり 掛時計の文字盤がかすむ

丸く熟した夢の実に
ゼフュロス
西風の吐息
火の山の熱で煮だせば
         ゼフィルス
ほのかに舞いたつシジミ蝶たち

 ゆらり いつしか船となり
 ほろり 月あかり窓にさす

うきかすは海図
煮こごりは沈んだ古代船
八角形の羅針盤に
夢の潮道が見える
by Hanna


「夢の実ジャムの作り方」

 



「午前零時のお茶会」

   Tea at 12 Midnight
Tick-tack-toe
ゲームに飽いたら
満月がちょうど12を指してる

Clip-clop
舞台のはねた回転木馬も
訪ねてくる

 呪文ひとつで踊りだす
  ドリーム・ヒップ・ティー&クッキー
 夢の実のお茶とお菓子と
 まわれまわれ屋根裏部屋まで
         ミラージュ
 つづく この世は鏡の国よ

Hippety-hop!
と 浮かれ騒ぎは
時計がちょうど南中してから

Callooh! Callay!
王手詰みなら
機嫌直しに一杯いかが

 呪文ひとつで地上をはなれ
ティー・アト・ドリーム・ディメンション
 夢の次元でお茶の会
 めぐれめぐれ月の沈むまで
        ミラクル・プレイ
 つづく この世は奇蹟劇
by Hanna
 

   塔の姫君
     とぎ
ばあやのお伽話に出てきた、
わたしは塔の姫君
長いこと 眠りつづけて
夢の廊下をさまようわ

ほのぐらい段をのぼり
いくども曲がりくねりながら
大脳迷宮 たどりゆけば
出あうのは形見の品々

 乾いた花束 欠けた櫛
 止まってしまったオルゴール

色あせた絵本の中の
わたしは長い髪の姫君
ただひとり 歩き回るわ
夜もなく 昼もなく

どこからか振子の音が
かすかな声で時を測る
鼓動と合わせ 高まりゆけば
行きつくのは 最後の小部屋
             ほのお
 胸の奥に サラマンドラの焔
 疲れた足に ガラスの靴

すべての時の回廊に沈む
すべての姫君の遺品たち
コチコチと時の足音が満ちれば
ひとつ またひとつと よみがえる

 涙のように熱くこぼれるランプの油
 予感にふるえて羽化する真珠の蛾

太古の闇から語りつがれた、
わたしは白き姫君
いま 魔法陣の中に立てば
黄金の鍵がひとりでに開く

 吹きこむ風 あふれる月光
 かなたの海へ! かなたの海へ!
 わたしは飛びたつ 大気にとけて
 水平線のはてで待つものに向かい
 かなたの海へ! かなたの海へ!
by Hanna


「時の回廊」

 



「記憶の底へ」

    記憶の井戸の底
記憶の井戸の底へ
つるべ
釣瓶落としに下りてゆけば
おしよせる わたしの海…

 温室の昼さがりは
   
 夢の樹をそだてるの
 あたたかな風が迷いこみ
 わたしの心にからみつく

 迷宮の夕まぐれは
       とかげ
 エメラルドの蜥蜴をはぐくむの
 血の色の残照が射しこんで
 爬虫類だった太古のわたしをつつむ

記憶の井戸の底で
命綱を繰りながらさまようわたしはアリアドネ
たずねゆくのは まだ見ぬ夢…

 ああ幼い蜥蜴は潮騒をなつかしみ
    リンボク
 夢の鱗木はエメラルドの温床からのびあがり
 無数の夢にからめとられて
 わたしは待っている

 いつの日か ひたひたと潮が満ち
 いつの日か 夢の樹がガラスを破り
 いつの日か 蜥蜴はドラゴンに
             きざはし
 ああ そのとき わたしは階梯を駆け上がり
 夢の大陸へ帰還する
by Hanna
 

「風の裏側の国」

    トランス・ウィンディアナ
   TRANS-WINDIANA
そこは 水平線の向こう側
そこは 気流に乗る種子たちの芽吹くところ

 夏の初め、
  憧れに迷った蝶がまぎれこんだのは
           みなそこ
  透きとおる緑の 空の水底
 
 金の粉をまぶした真新しい羽を
 ここでお伸ばし
 ゆらゆらと届く太陽の蜜を
 ここでお飲み

そこは 嵐の向こう側
そこは 吹き散らされた花々の集まるところ

 夏の終わり、
 夢に沈んだ蝶がたどりついたのは
 雲のたゆたう 空の水底

 踊りつかれた紗の羽を
 ここでお休め
 長くかなしい恋物語を
 ここでお歌い

ここは 時の舟のもやう港、
ここは 猫たちが午睡につどうところ。
ここは ねじれた思いが貝の形に層を成す、
トランス・ウィンディアナ
風の向こうの国
by Hanna
 

「風の女神」


   風界のスフィンクス
ねじれた貝の形のらせんの風を
無限級数の彼方までたどると
旅人が出会うのは
へきらく みなそこ  ま
碧落の水底に坐します
太古の女神

 薔薇の香と灼けた砂の匂う、
     トランス・ウィンディアナ
 そこは風の向こうの国
 竜巻を統べる女神の笑みは
 永遠の謎をたたえて

 わたしのいうのはだれ
 いまというのはいつ
       もだ
 ここは砂嵐も黙す
 風の真空帯
           しぶき
渦巻く潮より舞いあがる飛沫を
深層心界の裏側までたどると
祈祷者がまみえるのは
風界の上層に坐します
黄金の髪の女神
  しけ
 暴風の唄と凪の重圧に護られた、
     トランス・ウィンディアナ
 そこは風の向こうの国
 蝶たちを使い魔に 女神は問う
 銀の刃のような謎を

 おまえというのはだれ
 あすというのはいつ
 ここは鼓動も凍る
 時の真空帯

 謎をかけるのはだれ
 それをとくのはだれ
 風の迷宮の奥深く
       かたち
 竜と牝獅子の姿でひとり
 邪気もなく 女神は待ち続ける
by Hanna
 

    魔法の手をした伯爵夫人 Duchess with magical hands


「(画像未着)」

かのひとがちいさな鉢植えを窓辺に置けば
枝はするすると伸び
こみどり茂る天蓋となる

かのひとがその下でうたえば
ほの暗き樹蔭に      な
赤いいのちの実がたわわに実る

 たおやかな 春の宵には
 伯爵夫人よ、その魔法の指で
 赤い実をつんでは くるくる回せ

かのひとが夢の樹にささやきかければ
   まる
白く円い露がふくらみ
熟してたちまち星空をわたる月となる

かのひとがその下で両手を挙げれば
            あ
重なり合う葉のとばりが開いて
澄んだ夜明けがおとずれる

 風も凪ぐ、夏の前夜は
 伯爵夫人よ、その魔法の手で
 ぼくの夢にも月を昇らせ
 伯爵夫人よ、夜明けの前に
 もろともに海へといざないたまえ
by Hanna
 


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