聖獣たち

 

§ 日本画家・山口華楊(1899年〜1984年)の
描いた、すきとおるような動物たちに。


        猫 YeaYeaYea
ややや、猫。
ややもすると、猫。
やっぱり、猫。

 俺は眠ってないぞ。

ややや、猫。
にやーごう、猫。
やんぬるかな、猫。

 俺は狙ってるぞ。




   *黒灰色のペルシャネコの
    スケッチに寄せて。
by Hanna
 


          牛ん仔
む。
牛ん仔、む。
ちいちゃな角、む。

はむ、はむ、む。
おねむこらえて。
はむ、はむ、む。
くりかえし、かみかえし、くりかえし。

む。
牛ん仔、む。
ちいちゃな角、む。




   *「仔牛」に。
by Hanna
 


        うさぎのごはん
ふお、ふお、ふお
はみ はみ こうさぎ
たん、ぽ・ぽ・ぽ
ぱき、ぱき、ぱき。

ほく、ほく、ほく
はむ はむ こうさぎ
はるじょおん、お・お・おん、おん
ふしゃ、ふしゃ、ふしゃ。



 *もともとは、子ウサギのスケッチに。
by Hanna
 


          こみどりの季節
こみどりの迷宮のなか
はねとべ、小鹿
おまえの大きなうすい耳に
どくどく血のかよう音がするほど
それは深く しずかな宵

まみどりの海原のうえ
はねとべ、なよ鹿
おまえの大きなうるんだ目に
天のまろみがつたわるような
それはひそかな 解き放たれた夜




   *「飛火野」の鹿たちに。
by Hanna
 


      月夜野 tsu-ku-yo-no
野花は星だ、
タラリラ・ロリ・ロ、
ぽうっと明かるい、
こんやはうかれた、
    つきよ
とんまな月夜、
フルリロ・ラリ・ラ、
ひょいひょい踊れ。

 三疋きつね、
 お目々は星だ、
 タラリラ・ロリ・ロ、
 みどりの星だ。

こんやはしずかな、
まほうの月夜、
フルリロ・ラリ・ラ、
すまして踊れ。




   *「月夜野」に。
by Hanna
 


           見返り狐
       
羊歯の冠、あの娘にあげたい
未練たらたら、見返り狐
苔の若芽の、しみる森。




   *「叢原」に。
by Hanna
 


        豹王バギーラ
下生えの露を
つらねた首輪でも
おまえはけっして
つながれぬ

ヤマイヌたちの
吠え声とおのく夜明けのくるまで。

 豹王バギーラ
 ジャングルで出逢えよ
 しみとおる闇の
 ヒスイの月夜




  *「黒豹」に。「バギーラ」はキプリン
   グ『ジャングル・ブック』に出てくる
   黒ヒョウの名。
by Hanna
 


          夏 柿
若い柿の枝下に
すわって詩をひねりながら
かたい実がまるくじゅくすのを
待っているのだよ
あの みがいたトパーズをかくした
黒ねこの眠りは




   *「青柿」に。
by Hanna
 


        むらさきの決闘
山ふかく
むらさきの秋
木々ふるわせる
鹿王ふたり

 落ち葉が雨とそそぎ
 きのこはひっそりと見つめる
 しめった土にきざむは
 はげしい闘いの記録

枝々の屋根の下
根っこの骨の上
散りかかる燃え葉のなか
たたかう王者ふたり

 いづれが勝者か
 いづれが覇者か
 おのが冠たる
 つるぎの勝負

山ふかく
むらさきの秋
吐息が風となる
鹿王ふたり




   *「深秋」に。
by Hanna
 

§ 動物園の住人たち


        ロウランド・ゴリラ
どっしりと腰を据えている、
ぐいと突き出た顎で軽蔑している、
うんざりと、そっくり返っている、
毛むくじゃらな腕は後ろへやって、拒んでいる、

  おお、その瞳。
  高みを見つめ
  郷愁をあふれさせ
  彼方にそそがれる、そのまなざし。

指先でミカンをまさぐりながら、
口にバナナをほおばりながら、
いつも違うのは、
瞳。





     *神戸・王子動物園で長年、檻の外を睥睨し
      ていた元祖イケメン・ゴリラの「ザーク」
      に。彼は1983年に死亡しました。
by Hanna
 


   ガラパゴス・ゾウガメ あるいは真夏のUENO ZOO
お天道さまは てってござる
ぽっかりぽかり てってござる
ひなたの砂は かわいてござる
もくもく ざらざら かわいてござる

 ほっ ほっ ほっ
 すいかはうめえよ
 ざぶり ずぶり じゃぶり
 みずっけがあって
 しゃくしゃく じゃくじゃく

お天道さまは てってござる
きょうも また また 午睡のじかん
かめのこうらは かわいてござる
しわだらけの頸 かわいてござる    
by Hanna
 

§ 聖獣たち


           聖牛伝説
泡立つ海から上がってきたんだが
みんなはおれのことをこわがって、叫ぶんだ

小さな世界をひとつ背中にしょって、おれは旅した
横長の瞳のきれいな青白い牝牛に恋をしたけど
牛飼いはおれを目の敵にして、追いはらおうとするんだ

曲がったツノがじゃまで、左右がよく見えないよ
ひたすらまっすぐ進むしかないね

疲れたら塩からい影をなめて、おれは思い出を反芻する
そうやっていろんな物を発掘するんだ

やがてたどりついた土地に、ついてきたみんなは家を建てた
まん中の神域に、おれは今では棲んでいる
ひねもすすわって、もらった花輪をゆっくり食べたりして
すっかり丸くなったものさ、おれも
by Hanna
 


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