雨の日の 電話ボックスの中ほど
ひそやかで湿った空間はなかろうと思う
まわりじゅう つたい落ちてゆくしずくに
街角はゆがみ 街灯は花と開く
往きかうエンジンはかすかな叫びとなる
わたしの周りをつたいゆく雨よ
さながら天の愛撫のように
いくどもたえず洗い落としてゆく
記憶という記憶を
雨の日の かなしげなピアノのワルツほど
しめやかで息ぐるしい歌はなかろうと思う
窓辺の雨粒と合わせ ころがりゆく音色に
お
静寂はふくれ 世界は白く圧される
次第に雨音はいそぎ風のように去ってゆく
わたしの景色をぬりこめてゆく雨よ
おいはぎ
さながら白い追剥のごとく
ふりかえりもせずそそくさと逃げてゆく
世界中の視界から
雨の日の 雨の来る彼方の天ほど
におやかであたたかな空はなかろうと思う
どこから注ぐのか その源のもやにとざされた奥に
あおぐわたしの吐息は とどくだろうか
らせん
つのる憧れの思いは無限螺旋となって昇る
わたしの髪をぬらす幾千の雨よ
さながらしたたる甘露にも似て
かおりたかいうずきの足跡をのこしていく
星のつまったわたしの頭に |