黄色いふくろは何でしょう
 文・山口 華
絵・しのざき まりか
 

 

1.なぞのふくろ
 
「見て、長ーい。まっ黄っ黄!」
 妹のハルが引きずってきたのは、大きなシャカシャカの布(ぬの)。明るいえんがわで、ペンキぬりたてみたいに目だっている。
 ここはおじいちゃんの家で、ママが、おしいれからふとんを出すところ。入(にゅう)院(いん)していたおじいちゃんが、今日、帰ってくるんだ。
「ひさしぶりに晴れて、よかったわ」
と言って、ママはふとんを庭(にわ)先のものほしにかけた。庭(にわ)では、ネット(あみ)にからんだスイートピーに、赤や白の花が点々とついている。
 
「おにいちゃん、これ何? こいのぼり?」
 ハルは庭(にわ)で、布(ぬの)をふり回している。
「まっ黄色のこいのぼりとか、ないだろ」
「あっこれ、ふくろ。ボタンもついてる」
「ボタンぐらいあるだろ」
「まん中についてるんだよ」
と、ハルが言うので、ぼくも庭(にわ)へおりた。
 黄色いスナップボタンが、ふくろの中にある。ふくろをしめるボタンじゃない。しめるのは? と見ると、ジッパーだ。でも、
「口ちっさ。何も入らないじゃん」
「やっぱり、のっぺらぼうの、こいのぼり」
 去(きょ)年(ねん)は、ものほし台にこいのぼりがあった。ふつうの赤や黒の魚だ。
「当てっこしよ。ハルは、ようかいこいのぼりと思う。おにいちゃんは?」
「……何かのふくろ」
 なんだかくやしいので、ふくろをハルから取(と)りあげて、へやにもどった。
 

2.ゆうれいべや
 
「そうじきかけるから、二階(かい)へ行ってて」
 ママがぼくたちに言った。
 二階(かい)は、死(し)んじゃったおばあちゃんのへやで、いつもひんやり重(おも)い感(かん)じ。でも、
「やったー、ゆうれいべや! たんけん」
ハルはこのごろ、ゆうれいだの、ようかいだのがすきなのだ。ワクワク顔で、ぼくのすぐあとから階(かい)段(だん)をのぼってくる。
 
「やあ、きみたち、いらっしゃい」
 二階(かい)のくらがりから、声がした!
 ゆうれい!? 思わず一歩下がったら、せなかがハルの頭とぶつかった。
「おっとあぶない」
 また声。思いきってパコンと電気をつけた。
 へやのおくのいすに、茶色いぼうしのおばさんがいた。おばさんなのに、鼻(はな)の下にひげ。六月なのに、マントみたいな長い上(うわ)着(ぎ)。
「フシンシャ!」
 後ろでハルが、ずばっと言った。
「あ、いいねえ、その考え」
 おばさんは気を悪(わる)くしたようすもなく、
「へやに見知らぬ人がいたら、しんようしちゃだめだよねえ」
 その間にハルは階(かい)段(だん)下へ、
「ママー! フシンシャがいるー!」
 でも下からは、そうじきの音がするだけだ。
「あの、だれ……ですか」
 ハルがにげないので、ぼくはしかたなく、きいた。
「あ、いいねえ、そのしつもん。わたしは、名たんていアイコです」
 あやしい。どろぼうかもしれない。
「しんじてない顔だね。じゃあ見てごらん」
 おばさんは、片(かた)手(て)で本だなをさした。たんていの本ばかり、ならんでいる。『シャーロック・ホームズ 四つのサイン』『シャーロック・ホームズ バスカビル家の犬』「名探(たん)偵(てい)ポワロD(ディー)V(ブイ)D(ディー)セット」……
「それに、これ」
 おばさんが、ひざの上から手に取(と)ったのは、
「虫めがね! それと、何?」
 ハルが身(み)をのりだして言った。
「これはパイプ。ほんとには、すわないよ」
 おばさんはパイプを口へ近づけて、すってはくまねをした。すると、ひげがゆがんだ。つけひげだ! かべに、たんていのポスターがあって、おばさんのぼうしやひげやパイプは、それにそっくりだ。ハルは、
「ほんとに名たんていだー」
 いや、ちがうと思う。本や虫めがねを持(も)ってたって、ひげつけてたって、それは自分が名たんていじゃなく、えーと、
「アイコさんは名たんていの、ファン?」
「あ、いいねえ、そのすいり。大ファンだから、わたしも名たんていなの」
 いや、ますますへんな人だよ。
 

3.わたしはすいりする
 
「アイコさん、黄色いふくろは何でしょう」
 ハルは、ぼくが持(も)っているふくろを指(ゆび)さして、なぞなぞみたいに言った。
「あ、いいねえ、さっそく、たんていのしごとだ。ちょっと広げて見せて」
 二人でふくろのりょうはしを持(も)つと、
「ははあ、大きいね。じゃあ、いろいろ調(しら)べてすいりしよう。まず、どこにあった?」
「おしいれ!」
と、ハルがはりきって言った。
「ああ、何でもしまえる場(ば)所(しょ)ね。色は……」
「まっ黄色!」
「うん、こういう色をしてる物(もの)というと……」
「ランドセルカバー、ハルも小一でもらう」
「あ、いいねえ、その例(れい)。安(あん)全(ぜん)ランドセルカバーやレインコート、テントや、『工(こう)事(じ)中』のかんばんなどの色だ」
 あたりまえのことばっかりだ。でも、
「この黄色は、外で目だつための色だ。このふくろも外で使(つか)うと、わたしはすいりする」
へーえ、なるほど。
「では、形」
と、アイコさんはつづけた。
「長四角!」
「うん。持(も)つところは、ないね。これじゃ重(おも)い物(もの)をはこぶには、ふべんだ。このふくろには軽(かる)めで持(も)ち歩かない物(もの)を入れると、わたしはすいりするな。タグはついてる?」
 ふくろのはしに白いタグがあった。
「何て書いてある? 読んでみて」
 アイコさんは、パイプでぼくをさした。
「ナイロン100。80×(かける)160。手洗(あら)イ30…」
「うん、いろいろわかった。ふくろは横(よこ)80センチ、たて160センチの長四角。あつみは、なし。大きくて平(ひら)たい物(もの)を入れるんだね。
 手洗(あら)イとは、あらい方の注(ちゅう)意(い)だ。あらって何回も使(つか)うと、わたしはすいりする。そしてナイロンでできている。じょうぶで水に強いから、外で使(つか)うのにぴったりだ」
 
 ぼくは、タグのうらにも字を見つけた。
「『スナップボタンをとめてお使(つか)いください』。そうだこれ、へんなとこにボタンが」
 ふくろのまん中を指(ゆび)さすと、
「おや、だいじな発(はっ)見(けん)だ。いくつある?」
「二つ。内がわの、中のほうの、ふくろを三つに分けるとこについてて」
「いいねえ、その言い方。中(なか)身(み)を分けて、ぐちゃぐちゃにならないように、とめておくボタンだと、わたしはすいりする」
「ようかいこいのぼりを、とめとく!」
 ハルが、びっくりするようなことを言う。ぼくは急(いそ)いで、ほかに言うことをさがした。
「口がせまい。ここ、ジッパー短(みじか)い」
「あ、いいねえ、また発(はっ)見(けん)だ。口は何センチあく? つくえのひきだしに、じょうぎがあるから、はかってみて」
 つくえはアイコさんのとなりだ。ぼくがためらっていると、アイコさんは、
「わたし、立てないの。たのむよ」
パイプでぽんぽんと、ひざあたりをたたいた。
 おじいちゃんみたいに、ひざがいたいのかな。ぼくは三歩だけ進(すす)んで、じょうぎを出し、ふくろの口に当てた。
「7センチ」
「なぞめいてきたねえ。それじゃ、7センチより細い物(もの)しか入らない」
「ようかいこいのぼりは細長ーくなるの。せまくてもにげるから、ボタンでとめとくの」
 ハルの言うことは、へんだけど、ちょっとこわい。
 
「ほかに字は書いてないかな。作った会社の名前とか、品(しな)物(もの)の番(ばん)号(ごう)とか」
 そこで、二人でさがしたけど、ない。
「とすると、中(なか)身(み)のほうに名前や番(ばん)号(ごう)がついていたと、わたしはすいりする。でも、ふくろにおりめがあるから、中(なか)身(み)なしでたたんであったにちがいない」
 ぼくは、めんどうくさくなってきた。
「こんどは中を見てごらん。中(なか)身(み)のかけらとか、何かヒントがあるかどうか」
 ハルがジッパーをあけてのぞいた。
「何にもない。きれい」
「では、ふくろは使(つか)わなかったわけだ」
 さっき、「何回も使(つか)う」と言ったのに。
 

4.なぞとき
 
「手がかりをまとめるよ。このふくろには、大きいが細長くなる、外で使(つか)う物(もの)を入れて、スナップボタンでとめる。タツトさんは、これをしまっておいたが、けっきょく、中(なか)身(み)をもどさなかった」
 おじいちゃんの名前を知っているんだ。アイコさんて、だれなんだろう。
「タツトさんには、外でするしごとや、しゅみがありますか」
 外? ……入(にゅう)院(いん)前はおじいちゃん、ひざがいたくて、ぼくとウノばかりしていた。その前は、外へ行ってたかな。げんかんから出かけるおじいちゃんを、思いうかべてみた。
「あ、げんかんにゴルフの道(どう)具(ぐ)がある」
 まだ何か、思いだしそうだ。ゴルフ、外、細長い、ぐちゃぐちゃに……。むかし、庭(にわ)で言われたっけ、「こらこら、ぐちゃぐちゃにしないでくれ。からまってしまうぞ」。
「あっ、ゴルフの練(れん)習(しゅう)ネット! ぼうがついてたやつ!」
 ずっと前、おじいちゃんは、ぼうにまいたネットを広げて、そこへゴルフのボールをとばしていた。
「あ、いいねえ、そのひらめき!」
 アイコさんが大きくうなずいた。
「ネットをふくろにしまうとき、かたよって、ぐちゃぐちゃにならないよう、スナップボタンでとめると、わたしはすいりする」
「でも、からっぽだ。ネットすてたのかな」
 そのとき、ハルが、
「ネットあるよ! スイットピーさんの」
 そうだった。ネットは庭(にわ)に立てて、スイートピーやゴーヤをからませているんだ。
「よし、なぞはとけた! このふくろには、ゴルフ・ネットとぼうが入っていた。今は、それらを植(しょく)物(ぶつ)のささえに使(つか)っている。ふくろは、しまったまま。これが答えだ」
 アイコさんは、パイプをすってはくふりをした。ハルは手をたたいて、
「名たんていアイコー!」
 ハルが答えを当てたみたいで、ぼくはまた、ちょっとくやしい。
 

5.天気予(よ)報(ほう)
 
 アイコさんとの長い話はすんだ。ほっとして、ふと、まどを見ると、なんだかくらい。ハルもおどろいて、
「もう夜?」
「今は12時18分。天気予(よ)報(ほう)は昼から雨で、かみなり注(ちゅう)意(い)報(ほう)が出ている」
と、アイコさん。ハルは、こわそうに空を見た。そして、
「ママーたいへん! かみなり注(ちゅう)意(い)報(ほう)!」
 こんどはママの返(へん)事(じ)があった。
「だいじょうぶよ。お昼ごはんだから、下りておいでー」
 ハルは出ていった。ぼくもふくろを丸めて、
「あの、なぞとき、ありがとう」
「またいっしょに、すいりしましょう」
 アイコさんは、片(かた)手(て)でぼうしをちょっと持(も)ちあげて言った。
 

6.かみなりと、ほんとの答え
 
 ごはんのあと、ママと車で買い物(もの)に行った。
「おじいちゃんの退(たい)院(いん)いわいに、ごちそう作るね。パパもいっしょに帰ってくるよ」
 ところが、帰り。うすぐらい空から、ゴロロロ! と、かみなりが鳴ってきた。とたんにハルは手足をちぢめた。
「やーっ、こわい!」
 家にもどって、電気をつける前、ピカッ、そこらがぶきみに光った。ハルが、またわめく。そして、ドドドーン! ママは、
「おうちの中だから、だいじょうぶよ」
 外では、雨がザーッとふりだした。ハルは、お気にいりのクマちゃんをかかえて、ママにくっつく。
「あ、こんなとこへほうりだして」
 ママは黄色いふくろを見つけた。ハルは何か言いかけたが、そのときまた、ガリガリ、ドゴーン! ハルはヒーッと半なきだ。
 ママはハルの頭をなでて、ふくろをおしいれにしまった。こんどはぼくが、
「何のふくろかなと思ってさ、さっき……」
「これ? ふとんかんそうきのよ」
「ええっ? ふとん……?」
 ぼくはびっくりした。
「おふとんの間に、ふくろをはさむの。そして、この口にかんそうきのホースをさして、あったかい風を入れて、ふくらますのよ」
「ボタンは?」
「ボタン? ああ、そのままだと、ふくろのまん中ばっかりふくらむでしょ。ボタンをとめると、全(ぜん)体(たい)がざぶとんみたいに、平(ひら)たくふくらむの。そして、おふとんも全(ぜん)体(たい)がふわふわになるのよ」
 
 ママがりょうりを始(はじ)めたので、ハルはぼくのそばに来た。
「あれやっぱり、ようかいこいのぼりだよ」
「ふとんかんそうきって、ママが言ったろ。あったかい風を入れるんだって」
「こいのぼりも風を入れるよ」
「ふとんにはさむんだぞ。ぜんぜんちがうじゃん、ハルも、アイコさんも」
 ぼくはなんだか、はらがたった。その間も、ピカッ、バリバリ、ガゴーン!
「もういや、かみなりいつ終(お)わる? アイコさんにきこうよ」
「やだよ」
 アイコさんて、やっぱりあやしい。あとでママに言おう。あやしい人が二階(かい)にいるなんて、かみなりよりずっとこわい。
 

7.たいへん!
 
 かみなりが小さくなったころ、ママのスマホがピロンと鳴った。
「えっ、どうしよう!」
 画(が)面(めん)を見たママが、さけんだ。
「パパから。パパの乗(の)った電車、かみなりで止まっちゃったって! パパは、おじいちゃんをむかえに行くことになってるのに!」
「パパだいじょうぶ?」
「だいじょうぶよハル。だけど、電車が動(うご)くまで帰れないかも。こまったな」
 ハルをなでながら、ママは電話しはじめた。
「少しまっててくれない? ……しはらい? 5時まで? ……そんなこと言ったって」
 声がだんだん大きくなる。雨も、ママにまけずザーザーいう。
 
 やっとママは、こっちをむいた。
「あのね、あんたたち、るすばんできる?」
 えっ、まだ二階(かい)の話をしていないのに。
「かみなり、もう来ない?」
 すかさず、ハルがきいた。
「たぶんね。もう雨だけよ。ママは、パパとおじいちゃんをむかえに行ってくるね」
「電車なおった?」
「なおらないから、パパ、電車下りたって。でもタクシーもぜんぜん来ないって」
「おむかえ、ハルも行く」
「雨だし、道こむだろうし、病(びょう)院(いん)で荷(に)物(もつ)もあるし、お金もはらうし、時間がぎりぎりなの。だから、おるすばんしてて」
 ママはハルの返(へん)事(じ)も聞かず、ぼくに、
「知らない人が来ても、かぎあけないでね」
「うん」
 しかたなく、ぼくはうなずいた。知らない人が来るというより、もういるんだけど……。
「行ってきます!」
 ママの車が門を出て坂(さか)を上っていくのを、ぼくたちは、えんがわから見ていた。
 

8.もっとたいへん!
 
「おにいちゃん、ママもう帰ってくる?」
 ザーザーザー。
「ねえ、アイコさんとこ行こうよ」
「行かねーよ。あいつの言うこと、ちがってたじゃん!」
と、ぼくはイライラして言った。
「天気予(よ)報(ほう)は合ってたよ」
「え?」
「雨とか、かみなり注(ちゅう)意(い)報(ほう)」
「そんなの、テレビもやってるだろ。あいつは、あやしいフシンシャだぞ」
 ハルはクマちゃんの頭をなでた。小さい声で、だいじょうぶよ、とか言っている。
 
 外からドドドド、と、ひくい音。
 何だろう? えんがわで見回していると、ドド、ドゴーン! へいのむこうで茶色い水が、ふんすいみたいにふきあがった。おどろいて、じーっと見ていたら、水はちぢんで消(き)えた。
「おにいちゃん!」
 ハルが指(ゆび)さした。見ると、門の下から、水がバーッとこっちへ流(なが)れこんでくる。どんどん、どんどん、川みたいだ。
「中に入ろう!」
 ハルをおして、へやにもどった。ガラス戸のむこうで庭(にわ)はどろ水にかくれ、ぼくたちのサンダルが、ぷかぷか流(なが)れていく。
「やばい、こうずいだ」
 水に雨がはねまくっている。ぼくは、さむいような気分になった。
「そうだ、二階(かい)にひなんだ」
 ハルの手をつかみ、むきをかえた。家の中はくらい。電気のスイッチをおす。パコン、パコン、パコパコパコ。
「ていでんだ。ほんとにやばいぞ」
「ママに電話しようよ」
 ところが電話も、ツーともいわない。
「ハル、かいちゅうでんとう、さがそう」
 ちょうど、階(かい)段(だん)のかべにあった。つけると丸い光が出て、ひと安(あん)心(しん)だ。
 二階(かい)にはアイコさんがいるけど、「つなみやこうずいのときは、高いところへ」と習(なら)ったから、行くしかない。
 
「アイコさん、庭(にわ)がこうずいみたいで、」
と言いながら、へやに入った。しんとしている。かいちゅうでんとうの光のわの中で、アイコさんは、目をとじて動(うご)かない。
「あっ!」
 ぼくは、間近からアイコさんに光を当てた。
「見ろ、人形だ!」
「えーっ!」
 アイコさんの長い上(うわ)着(ぎ)の下には、足もない。ひざだと思った台に、パイプと虫めがね。
「なーんだ、人間じゃなかった」
「アイコさんロボットだ。名たんていロボ」
 ほっとした。二人で、ゆかにすわりこんで、なーんだロボットだー、と、わらった。
 

9.ふくろの使(つか)い方
 
「あ、いいねえ、二人とも。ちゃんとるすばん、ちゃんとひなん」
という声がした。くらがりで、アイコさんがぼくたちを見おろしている。
「ママもう帰ってくる?」
 すぐさま、ハルがきいた。
「今は5時12分。まだ少しかかると、わたしはすいりする。大雨こうずい警(けい)報(ほう)が出ている」
 ぼくは、まどから下をのぞいてみた。
「やば、海みたい」
「雨がやんだから、じき水はひくと、わたしはすいりする。少しまてば、だいじょうぶ」
 それを聞いて、急(きゅう)にはらがたった。
「すいりすいりって、ちっとも当たらないじゃん! 黄色いふくろも、ゴルフ・ネットのじゃなかったし」
「そう、ごめんなさい」
「ふとんかんそうきのだったじゃん!」
「なるほど。わたしは、ふとんかんそうきについて、もっと学(がく)習(しゅう)するよ」
「外で使(つか)うとか、ぜんぜんちがう」
「あら。でも、あのふくろは外で使(つか)うにも、ぴったりだ。たとえば、今」
 そのとき、バタタタタ……と、音がしてきた。まどを見ると、
「ヘリコプターだ! 助(たす)けにくるんだ!」
「ヘリプター? おーい、おーい」
 ハルが、とびはねて手をふった。
「ここじゃだめだ。えんがわに行こう」
「そして、黄色いふくろを使(つか)ってください」
と、アイコさんが言った。
「使(つか)うって……外で。目だつ色。そうだ!」
 ぼくは、いいことを思いついた。
 まず、ひきだしから太いマーカーペンを見つけた。一階(かい)へ下りて、黄色いふくろを出して広げ、「S(エス)O(オー)S(エス)たすけて」と、大きく書く。ハルは、目玉とひれをかいた。
 次(つぎ)に、階(かい)段(だん)下にあったきゃたつを、えんがわへ引っぱりだす。雨はやんで、水はしずかだ。庭(にわ)にきゃたつをおろすと、半分ぐらい水につかった。
 きゃたつに乗(の)って、ものほしざおを台からはずした。さおには、くねくねの細いぼうがくっついていて、すきまにハンガーをかけられる。
 さおに黄色いふくろをかぶせ、ハンガー用のすきまのところで、スナップボタンをプチッととめた。これで、ふくろははずれないぞ!
 さおを、ものほし台に立てかけた。まっ黄色のふくろが空へつき出て、よく目だつ。
「ようかいこいのぼり! 空へのぼる!」
と、ハル。
 バタタタタ……
「おーい、おーい、S(エス)O(オー)S(エス)、たすけてー!」
「おーい、おーい、ママ帰ってきてー!」
 

10.ようかいこいのぼり
 
 すると、黄色いふくろが、さおいっぱいにのびて、すすっと上へ動(うご)いた。そして、S(エス)O(オー)S(エス)の体をくねらせて、空をおよいだ!
 ようかいこいのぼりだ、空へのぼった !!
 ようかいこいのぼりは、スイートピーをネットごと、しっぽで持(も)ちあげた。赤や白の花や緑(みどり)のはっぱが、黄色の下でゆーらゆら。
 バタタタタ、ヘリコプターが上に来て、はしごが出てきた。そこに、ママがいた! ぼくたちはママの手につかまって、……
 

11.おじいちゃんの話
 
「ちょっと、あんたたち!」
「ねちゃってるよ」
「まちくたびれたんだな」
 ママとパパとおじいちゃんの声がした。
 目をあけると、電気が明るい。横(よこ)でハルが、目をぱちぱちしている。
 へやのおくに、名たんていファンロボットのアイコさんが、すわっていた。おじいちゃんはニコニコして、
「ひさしぶりに二階(かい)に来てアイコを見るよ」
 
 一階(かい)に下りると、黄色いふくろも、きゃたつやものほしざおも、庭(にわ)も、もとどおりだった。
 パパとママがいそがしい間、ぼくとハルは、おじいちゃんと話をした。
「おばあちゃんは二階(かい)にいたころ、ロボットのアイコを相(あい)手(て)に、大すきな名たんていのことを話したり、調(しら)べたりしてたんだよ」
「アイコさん、すごい名たんてい」
と、ハルが物(もの)知り顔で言った。
「でも、ぜんぜんちがってたんだ」
と、ぼくは今までのことを話した。
 おじいちゃんは全(ぜん)部(ぶ)聞いてから、
「黄色いふくろは、ふとんにはさむ物(もの)だけど、ゴルフ・ネットも入るし、ようかいこいのぼりにも、S(エス)O(オー)S(エス)にもなるよ。
 アイコはね、人間みたいに考えるA(エー)I(アイ)ロボットなんだ。でも、最(さい)初(しょ)から何でもわかるわけじゃない。まちがうこともあるけど、いろいろ勉(べん)強(きょう)して、かしこくなってくよ。アキトやハルと同じさ」
 
 ごちそうができた。みんなで、ジュースでかんぱい。
「おじいちゃん、退(たい)院(いん)おめでとう!」
 アイコさんは二階(かい)だ、かんぱいできなくて、ちょっとざんねんかな。ぼくは思った。
 
おわり
 

あとがき
対象年齢 小学校低学年から


文 山口 華
   これまでに『海鳴りの石』全4巻、『天までひびけ! ぼくの太鼓』(銀の鈴社)。
   新刊『アラウンド・ザ・ワンダーランド――ぼくの夏休み日記』(銀の鈴社) 今夏、
   出版予定です!
 
   この物語は、実家で見つけた黄色い袋がきっかけです。なぞときモノに挑戦しました
   が、ファンタジーが好きなので、最後はやっぱりファンタジーになりました。
   絵がつくことで、物語が新たな誕生を迎えると思うと、わくわくします!
   ブログ「HANNAのファンタジー気分」: https://plaza.rakuten.co.jp/yhanna/
   ホームページ: http://hanna.g2.xrea.com/


絵 しのざき まりか
   子どもの頃から絵本が好きで、絵本を開くと繰り広げられる、美しく楽しげな世界は
   私の憧れです。
   自分でもそんな世界が表現できたら嬉しいと思い、大学では美術を専攻し、その後
   グループ展や個展などで絵を発表してきました。
   現在は新*童画に所属して、絵を描いています。
 
   ハルちゃんとアキトくんのやり取りから、服装や髪型、声や性格はこんな感じかな?と
   想像するのが楽しかったです。
   素敵な機会をありがとうございました。
   メール: ohisamatotanpopo@gmail.com
   新*童画ホームページ: https://shindouga2011.wixsite.com/shin-douga


*この作品を作者に無断でコピーすることは、著作権の侵害にあたり禁じられています。
by Hanna
 


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