そうじきザウルス
やまぐち はな           .
山口 華 さく        .
うえすぎ しんや え        .
 

 もうすぐ、たんじょうび。
 プレゼント、なにかな?
 ショウくんは いろいろ かんがえた。
 「ごみしゅうしゅうしゃに のりたいな。
 それと、きょうりゅうも いいな。
 あまい メロンも たべたいし。
 それから……」

 じつは、いちばん すきなのは……、
 

 そうじき!
 すがたも おとも、かっこいい。
 ショウくんが またがって、はしらせると、
 きょうりゅうみたいな ながい ホースが、

 ガウィーン

 ごみを すう。
 うしろから、

 ブオーッ

 かぜを だす。
 さいごに ボタンを おすと、

 ヒュルルン

 ながい コードが ひっこむ。

 けれども、ママが とんできた。
 「そうじきに のるなんて、だめっ!」
 

 たんじょうびの あさが きた!
 ショウくんは きょうから 四(よん)さい。

 おおいそぎで ごはんを たべると、
 プレゼントに とびついた。
 「わっ、のりものずかん!
 わっ、きょうりゅうロボ!
 わっ……これ、なんだあ?」
 たくはいトラックで とどいた はこ。
 なかには、ほそながい ふわふわした ものが いっぱい。

 ママが テーブルの うえの おさらを かたづけだした。
 「まあ、ゆかに パンくず!」
 でも、ショウくんは きいていない。
 はこの ふわふわを かきわけたら、
 かたくて まるい ものが あったんだ。
 「メロンだ! やったあ」
 さっそく メロンを だっこして、

 スキップ、スキップ……

 「わわっ!」
 

 はこを けっとばしちゃった!
 そのひょうしに メロンが うでから とびだした。
 「ショウくん!!」
 ママの こわい こえ。

 たおれた はこから、ふわふわが もわーっと、こぼれた。
 メロンは そこへ おっこちて、
 ふわふわだらけになって、
 テーブルの したへ ゴロゴロン。
 「だめでしょ、メロンを もって あばれたりして!
 それに、ゆかが ごみだらけ!」
 ママの こわい こわい こえ。
 

 ショウくんは はなの おくが つーんと あつくなって、

 ウ、ウ、ウワアーン!

 ああ、たんじょうびが だいなし。
 もう、なにも みえない、きこえない。
 じぶんの なきごえが あたまに ひびくだけ。 

 ウワーン、ガワーン、ガウィーン!

 すごい おと。
 まるで、それは……、
 なにかに にてるよ。
 なんだろう?
 

 ショウくんが なくのを やめて、
 めを パチパチしたら、
 「なあんだ。そうじきだ」
 そうじきは ながい くびを うごかしながら
 おおきな おとを……、
 と、おもったら、ガウィーンが やんだ。
 そうじきは くるっと ふりかえり、
 「なあんだ、とは、なんだ」

 「あっ、そうじきじゃない!」
 「うん、ただの そうじきじゃない。
 そうじきザウルスさ」
 そうじきは、いえ、そうじきザウルスは、とくいそうに いった。
 「そうじきザウルス?」
 そのなまえは でっかくて つよくて、
 わくわくっと たのしい かんじ。
 「ショウくん、たんじょうび おめでとう。
 おれさまの せなかに のって、ひとっとびしないか?」
 ひとっとびだって!
 でも……、
 「ママが そうじきに のっちゃ だめって」
 「それは ただの そうじきの ことだろ。
 そうじきザウルスなら、のれるんだよ」
 「ほんと!?」
 

 そこで ショウくんは そうじきザウルスの せなかに、
 よいしょ、と またがった。
 「まず、じゅんびうんどう」
 と、そうじきザウルスは、

 ガウィーン! 

 ショウくんを のせて へやを はしる。
 くびを のばすと、パンくずも ふわふわも、
 ひらたい くちの なかへ。
 「すごーい! みんな、たべちゃった!」
 「じゃあ、いよいよ、しゅっぱつ!」
 

 そうじきザウルスは まどの そとへ ジャンプ!
 にわの かだんへ、ぽーん。
 「この つちが、うまそうだ」
 そう いって、
 はなが ちって きいろくなった チューリップの、
 まんなかに とびこんだ。

 ガウィーン、バババ……

 かれた はっぱも かたい つちも、
 そうじきザウルスの くちの なかへ。
 にわで せんたくものを ほしていた パパは、
 びっくりぎょうてん。

 ザザザ!

 そうじきザウルスの おしりから、
 つちの こなが でてきた。
 まるで、シャワーみたい。
 「あたらしい かだんに なった!」
 「じゃあ、つぎへ いこう」
 

 そうじきザウルスは だいジャンプ。
 そのまま、おりずに すすむ!
 「ういてる! とんでるよ!」
 ショウくんは あわてて、
 そうじきザウルスの くびねっこに つかまった。
 ちかくの ごみしゅうしゅうしゃの ひとたちが、
 びっくりぎょうてん。
 でんせんの すずめも、
 びっくりぎょうてん。

 そうじきザウルスは でんせんを いくつも こえて、
 いけに きた。

 このいけは ごみが ういていて、
 あんまり きれいじゃない。でも、
 「あの みずを、いただこう」

 ガウィーン、ジョババ……

 そうじきザウルスは どろや あきかん、おかしの ふくろも、
 ぜんぶ すいこんだ。
 いけの そばで いぬと さんぽしていた おばさんが、
 びっくりぎょうてん。
 「おなかを こわさないの?」
 ショウくんが しんぱいして きくと、
 「だいじょうぶ。そうじきザウルスの いぶくろは、とくべつさ」
 そして、おしりから すんだ みずを シャーッ。
 まるで、ふんすいみたい。
 「きれいな いけに なった!」
 

 「デザートに、あの くもを、いただこう」

 ガウィーン、ザバッ!

 そうじきザウルスは そらへ のぼる。
 まるで、ジェットコースターみたい。
 すごい たかさ。
 いちめんの あおいろ。
 そして おひさまの ひかりが いっぱい。

 しろい くもが みえてきた。

 ガウィーン、ウィウィウィーン

 そうじきザウルスは うたいながら、
 つぎつぎ くもを すいこんだ。
 クリームみたいな とろとろの くも。
 わたあめみたいな ふわふわの くも。
 かきごおりみたいな シャキシャキの くも。
 そらは ますます あおく、まぶしくなる。
 とおくには、UFO(ユーフォー)みたいな まるい そうじきに のった こや、
 ぼうみたいな そうじきに またがった まじょも、とんでいる。
 そうじきザウルスの おしりから、しろい すじが でている。
 「わあ、ひこうきぐもみたい」
 「そうとも。そうじきザウルスは ジェットきの しんせきさ」
 ぐるーり、ぐるん、ちゅうがえり。
 ショウくんの あたまは くらくらくらっ。
 

 ガウィーン、ガガッ、ゴッ……

 きゅうに、へんな こえ。
 そうじきザウルスが いきおいを なくして、よろり。
 「うわっ。どうしたの」
 「ググッ、きもち、わるい……」
 あたまを だらんと さげて、
 ススーッと よこへ。
 「だいじょうぶ?」
 「ウウッ、くるしいっ。
 ママを、ママを よんでくれぇ!」
 「ママ? だけど、ここは そらの うえだよ」

 ガガッ、ゴッ、ググウ……

 「どうしよう?」
 ショウくんは そうじきザウルスの せなかを さすった。
 すると、おや。
 せなかに、おしボタンが あるぞ。
 「ねえ、ボタンを おしてみようか?」
 そうじきザウルスは よろり、ススー、ぐらり、
 へんじを しない。
 とにかく やってみよう!

 ぎゅうっ
 

 ヒュルルル、ルゥー

 とたんに、そうじきザウルスは ななめうしろへ おちはじめた。
 とおりかかった ひこうきが、
 びっくりぎょうてん。

 ヒュル、ズオオオオーッ!

 すごい スピード。
 つめたい かぜが ふきあげる。
 「おっこちる! やめてぇー」
 ショウくんの あしが そうじきザウルスから はずれちゃった!
 てだけで くびねっこに しがみつく。
 みみは キーン、あたまは くらくらくらっ。
 「たすけて、たすけて!
 ママァーッ!!」
 

 ヒュルルン、ふわっ

 「あ、とまった」
 ショウくんが めを パチパチしたら、
 「ママ!」

 そらの まんなかに ママ。
 かたてで そうじきザウルスを がっちり つかんでいる。
 「たべすぎよ。くいしんぼうねえ」
 ママは いった。

 そうじきザウルスの からだは ふくらんで、ぱんぱんだ。
 「とにかく、あけてみましょ」
 ママは そうじきザウルスの せなかを パカッと ひらいた。
 なかには、ほそながい ふわふわした ものが いっぱい。
 「これじゃあ、くるしいはずよ」
 ショウくんは くびねっこに ぶらさがったまま のぞこうとして、
 「わわっ」

 くらくらくらっ

 おっこちた!
 

 「ショウくんたら、でてらっしゃい」
 「えっ?」
 ショウくんが めを パチパチしたら、

 ひらり

 あおい テーブルかけが かおに あたる。
 なあんだ。ここは、おうちの テーブルの しただ。
 みると、ママが そうじきザウルスの いぶくろを だして、
 なかみを ごみぶくろに すてている……
 「あっ、そうじきザウルスじゃない!」

 ママは ただの そうじきに、からになった ケースを もどして、
 ふたを しめた。
 「そうじき、なんだか ちいさいな。
 ぼくの ほうが うんと おおきい。
 ぼく、四(よん)さいだもの。
 もう、そうじきに のらないで いいや」
 

 ところで、
 「ねえ ママ、メロンは どこに いったの」
 「まあ、くいしんぼうねえ。
 メロンは、れいぞうこよ。
 おやつに たべましょうね」
 ママは そうじきの ながい くびを おりたたんで、
 へやの すみに たてた。
 それを みたら、やっぱり、
 そうじきザウルスが つかれて ねむっているみたい。
 おやすみ、そうじきザウルス。
 ひとっとび、ありがとうね。


                              おわり
 

あとがき
対象年齢 3歳から

プロフィール
文 山口 華(やまぐち はな)
 これまでに『海鳴りの石』全4巻、『天までひびけ! ぼくの太鼓』(銀の鈴社)
 子育て中、絵本読み聞かせボランティアを10年間楽しみました
 テキストが絵をまとうとき、新しい誕生のような発見や驚きがあり、世界が広がって
 いくのが快感です
 このお話は、幼い息子が掃除機にまたがるのを見てできた…のではありません!
 おもちゃの汽車で爆走する息子の横で、掃除していた私自身が、掃除機に乗って爆走
 してみたい! と思ってできました
 ワクワク感いっぱいの絵を描いていただき、新たな感動が生まれました


絵 うえすぎ しんや
 デザインを学んだ後、CMカンプ制作会社でのバイト、ゲーム・ゲーム雑誌でのイラスト
 レーターを経て童画の世界へ
 そこで出会ったいろんな縁から参加させていただくことになりました
 可愛い作品の絵を担当させていただくことが出来ました
 ありがとうございました
 文章や描くものによって画材や画風を変えるのでデザイナーさんから使いづらいと言わ
 れる私ですが最近事前に「こんな感じだとどうです?」と確認するようになりました
 shinya.wesugi@gmail.com



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by Hanna
 


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