A Tiny Hanna-dannan Cookbook
〜 お正月スペシャル! 〜

  4代目の大阪人・はなだんな家に伝わる「お正月料理」のあれこれ。おせち料理、雑煮に加え、番外編として正月飾りや正月にまつわる行事についてもご紹介します。
  戦後、たいして変わっていないとは思いますが、大阪の伝統的な風習に、父や祖父など各世代のアレンジが加わっているかもしれません。お気づきの点がありましたら、メールまたは掲示板への書き込みで、どうぞ。

口 上
煮〆を中心にした御節(おせち)料理 雑煮(1日・3日) 雑煮(2日) おおぶく茶 屠蘇 鏡餅 門松・〆縄 祝い箸・ぽち袋・年賀状 年越しそば・新しい衣類・朝風呂
 

おせち料理(煮〆)
●材料 かまぼこ、厚焼き、高野豆腐、クワイ、タケノコ、レンコン、こんにゃく、金時ニンジン、ゴボウ、黒豆、栗の甘露煮、カズノコ、棒鱈、ゴマメ。
●手順 1-1) かまぼこ、厚焼きは、適当な厚さに切る。
1-2) 栗の甘露煮は、瓶詰めを買っておく。
2-1) 高野豆腐は、だしで戻して薄味に炊く。
2-2) クワイは球の部分の皮をむき、タケノコは適当な大きさに切って、それぞれ薄味で炊く。
2-3) レンコンは皮をむいて輪切りにし、やや濃いめの味で炊く。
2-4) こんにゃくは一口大に四角く切り、金時ニンジン(日本ニンジン)は皮をむいて輪切りに、ゴボウは皮をこそげて適当な長さの棒状にし、それぞれ濃い味で炊く。
3-1) 黒豆は皮がはげないように、やさしく洗う。
3-2) 鍋に、黒豆の4〜5倍の重さの水、8割の重さの砂糖、重曹小さじ1、醤油少々を入れて煮立てる。
3-3) 煮立ったら黒豆を入れ、再び煮立ったら火を止めて、ひと晩置いておく。
3-4) 次の日にまた火にかけ、煮立ったらごく弱火にして、吹きこぼれないように注意しながら、豆の表面が煮汁から出るまで、数時間炊く。
4-1) カズノコは水につけて塩出しをし、食べるときにかつおぶしと醤油少々を振りかける。
5-0) (最近は煮付けた棒鱈を買ってくることが多い)
5-1) 棒鱈は毎日水を換えて、数日かけて戻す。
5-2) 一口大に切り、やや濃いめの味で煮含める。
6-1) ゴマメは、ごく弱火にしたフライパンで、焦がさないようにパリッとするまで煎る。
6-2) 酒に、みりん・砂糖各少々と微量の醤油を合わせておき、ゴマメを煎っているフライパンにぶちまけて、熱いゴマメにからめ、焦げないうちに火を止める。お好みで唐辛子を振ってもよい。

厚焼き……「卵焼き」ではなくて、卵を混ぜて作ったはんぺんの、表面を少しきつね色に焼いたようなものである。
○蛇足……一の重(いちのじゅう)から与の重(よのじゅう=四の重)まで、何をどこに入れるかが厳密に決まっているわけではありません。一部を略すこともありますし、カブラの千枚漬けが好きな祖母が、毎年正月の食卓に加えていたこともありました。ただ、根菜を中心とした野菜の煮物と、塩干物の魚がほとんどであることには変わりありません。
  レンコンは先を見通せる、とか、黒豆はマメに暮らせるように、とか、「言われ」(こじつけ)のある食材もあるでしょうが、本来はこの季節の精一杯のごちそうを並べたものだったのではないでしょうか。
  なお、タケノコからゴボウまでを一緒に炊くと「筑前煮」になります。一緒くたに炊いて、お重に詰めるときに分ける、というのもアリだと思います (^_^)。
  さらに言えば、黒豆には鉄くぎを入れて炊かなくても、充分黒くなります。

白味噌雑煮
●材料 焼かない丸餅、小芋、雑煮大根、焼き豆腐、白味噌。
●手順 0-1) 小芋は皮をむいて下ゆでする。
0-2) 雑煮大根は薄い輪切りにする。
1) 鍋に人数分のだしと大根を入れ、沸かす。
2) しばらく煮立ててから小芋と焼き豆腐を入れる。
3) 煮立ったら弱火にして、白味噌を溶き入れ、必要な数の餅を沈める。
4) 餅が軟らかくなれば、できあがり。
○蛇足……豆腐の焼き目以外は白一色の雑煮です。また、豆腐以外は、すべて丸い具です。子供心に「名前は雑煮なのに、シンプルやなあ」と思っていましたが、もともとはほかにも具があったのでしょう。
  正月以外に食べても美味しいように思うのですが、細い大根が手に入りにくいと思います。しかし、行事として食べるのでなければ、大根は銀杏切り、ニンジンも入れて……で、まったく構いません。

澄まし雑煮
●材料 焼いた丸餅、水菜。
●手順 1) 小餅は強火で焦げ目をつけて焼く。
2) 鍋に人数分のだしを入れて沸かし、醤油をたらして澄まし汁を作る。
3) 「2」に焼いた小餅を入れる。
4) 餅が軟らかくなりかけたら、適当に切った水菜を入れて火を止め、できあがり。
○蛇足……食べるときに、自分のお椀の水菜を箸で高く掲げ、「菜(名)が上がりますように」と念じて食べる「縁起食」です。わが家では元日と3日は白味噌雑煮、2日はこの水菜の雑煮を食べます。
  鯨のはりはりと同様、水菜のシャキシャキ感を味わうため、加熱は最低限に抑えてください。
  上の「白味噌雑煮」以上にシンプルですが、家族には評判のいい雑煮です。普段に食べるなら、カモ肉か、タレを付けずに鉄板で焼いた「焼き肉用牛肉」を入れると豪華な一品になります。

おおぶく茶(大福茶、皇服茶)
●材料 (1人前)小梅1コ、白こんぶ(チューインガム程度の大きさ)、煎茶。
●手順 1) 湯飲み茶碗に小梅と昆布を入れる。
2) 熱い煎茶を注ぎ、軽くかきまぜて飲む。
3) 梅と昆布は、適宜いただく。
○蛇足……「おおぶく(おんぶく)の梅」を使ったお茶です。おせち料理や雑煮を食べる前に、家族が揃って「お祝い!」と言って、まずこのお茶を飲みます。ここから正月のハレの食事が始まるのです。
  わが家では、梅はカリカリ小梅をよく使っていました。昆布は、鏡餅を飾るのに使う長い昆布の一部を切っておいて、おおぶく茶用にしていました。
  味は、梅こぶ茶というものがあるぐらいですから、そこそこ爽やかで口当たりのいいものです。お茶が渋すぎたり薄すぎたりすると、味わいが半減します。

屠蘇
●材料 清酒(、あれば「屠蘇散」)。
●手順 0) 屠蘇散を酒に浸す。
1) 酒は冷やのまま、または燗でいただく。
○蛇足……本来は「屠蘇延命散」という調合されたものをみりんに浸し、それを飲むのが「屠蘇」ですが、わが家ではいつの頃からか、単なる「正月に飲む酒」をお屠蘇と呼んでいます。
  「屠蘇散」の正体は、山椒やショウガやシナモンなどだといいますから、お屠蘇というのは一種のハーブ酒ですね。酒屋でもらった「屠蘇散」のパックや、粉山椒とシナモンスティックを日本酒に混ぜて飲んでみたことがありますが、やっぱり清酒のほうが美味い!ということで、今では凝ったことはしなくなりました。

鏡餅
●材料 餅、裏白、白こんぶ、串柿、ダイダイ(小型の場合は葉付きミカン)。
●手順 1) 三方の上に、裏白を2枚、左手前と右手前に突き出すように敷く。
2) 大小の餅を重ねて置く。
3) 長い白こんぶ1枚を、餅の上から両横に垂らす。
4) その上に串柿を乗せる。
5) 一番上にダイダイ(葉付きミカン)を飾って、できあがり。
○蛇足……わが家では、3が日飾ったお鏡は、1月4日には下げて、切り分けてしまいます。奈良県発祥の天理教でも、両側に取っ手のある大きな刃物で餅を切り分けるようなので、これは大和地方の風習なのかもしれません。
  串柿は食べられます。ダイダイは汁を絞ってぽん酢に使えます。葉付きミカンも食べられますが、種が多くて閉口した覚えがあります。昆布は干からびていればボツ。切った餅は、カビの生えないうちに食べきるのが、毎冬の課題でした。
  今ではかつてほど大きな鏡餅を飾らなくなりましたし、冷凍庫もあるので、カビの心配はなくなりました。

門松と〆縄
●材料 門松は松の小枝1対、〆縄は横長のもの(俗に言う「牛蒡(ゴンボ)」)。
●手順 1) 門松は、家に向かって左に雄松、右に雌松。雄松は枝が比較的真っすぐなもの。雌松は枝が比較的しなやかなもの。
2) 〆縄は、玄関の上部に飾る。
○蛇足……お飾りはいずれも「九(苦)を嫌い、一夜飾りは避ける」ため、28日以前か30日に飾ります。門松は神の「よりしろ」、つまり「神さんが降りてきはる時の目印」、〆縄は「結界」、つまり「ここの内側は別世界でっせ」というのを示す、という意味合いがあるそうです。
  どちらも、飾るのは「松の内」の間……というより、飾っている間を「松の内」といい、大阪は1月1日から14日までの14日間。お飾りは14日の夕方に外し、15日(小正月)に近くの神社などで行われるトント(サギチョーなど、呼び方はさまざま)に持っていって焼きます。かつては、14日の晩には外し忘れたお飾りを取っていってもいい、という習わしがあったらしく、取られた家はゲンが悪いとされた、といいます。
  門松は地方によって左右が逆のところもあるでしょうが、確認はしていません。

ほかに用意すべきもの
●材料 祝い箸、ぽち袋、年賀状。
●手順 1-1) 祝い箸は、箸紙にそれぞれ家族の名前を書く。
1-2) 家族の分とは別に「海山」と書いた1膳も用意する。
2) ぽち袋は、子たちにお年玉を入れてあげる時の袋である。
3) 年賀状は、通常12月15日ごろから受け付けになる。
○蛇足……祝い箸は塗られていない白木の箸で、両削りになっています。これは、食物をつかむのと反対側で「神様」も正月の食事をされるからだそうです。この箸は1膳ずつ「寿」などと書かれた箸紙に収められていて、箸紙には「太郎」「花子」などと、家族の名前を書きます。本家では年始の挨拶に来る兄弟や孫たちの祝い箸を用意することもあります。
  「海山」と書いた祝い箸も用意し、おせち料理をいただく時に出しておきますが、これは取り箸ではなく、やはり「神様」用の箸かもしれません。……とすると、二重取りですかね(^_^;)。
  祝い箸を使うのは、3が日と小正月(1月15日)、節分(=「年越し」、2月3日ごろ)の計5日間です。節分にも使うので、小正月のトントで焼くわけにはいきません。小正月にはこれで小豆粥を食べ、節分には麦飯を食べます。
  なお、小型の祝儀袋である「ぽち」袋の名前の由来については、よく知りません。

特筆すべき行事
●項目 年越しそば、新しい衣類、朝風呂。
●手順 1) 大晦日にそばを食べる。
2) 元日には、下着も含め、衣類はすべて新しくする。
3) 元日は風呂を沸かさず、2日と3日は朝風呂に入る。
○蛇足……そばの食べ方は自由ですが、わが家では、かけそばにすることが多いようです。
  また、衣類を新しくするのは正月ならではです。子どものころ、枕元に新しい衣類を用意して寝て、元日の朝に起きたら、寒い中、パンツも含めてすべて新しいものに着替えましたが、冷たい下着を身につけることできりっと引き締まった感じがしたものでした。
  正月の朝風呂は、風呂をまきで沸かしていた重労働の時代に、1日でも作業を休もうとしたことと、その分、正月気分もあって「朝から風呂に入る」というぜいたくを味わったのとの2点で、ずっと風習として続いてきたのでしょう。しかし、今ではボタン1つで風呂に入れる便利な時代になったのと、大晦日から2日の朝風呂までと、3日の朝風呂から4日の通常の風呂までの1日半のインターバルが気になったのとで、わが家では正月も通常通り、風呂に入っています。
  もっとも、わたしが小学生のころに正月の朝風呂でのぼせたことがあり、それ以来、わが家では父が朝風呂をやめてしまいましたが、風呂好きの父はきっと「元日に風呂に入らない」のが嫌だったのかもしれません。



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