私が好きな登場人物たち―― 魔法使いガンダルフ

J・R・R・トールキン『ホビットの冒険』より


 ――あのガンダルフが、やってきたのです。(中略)ガンダルフが顔を出す

ところには、どこにもきまって、ふしぎな物語、ものすごい冒険がまきおこる

のです。



 とんがり帽子に長マント、ユーモアと威厳にあふれ、愉快で頼れる元気な老

人。主人公ビルボのように、平穏だが少々退屈な日常を送る私たちは、あっと

いう間に竜退治の旅へ連れ出してくれるこんな人物を、心の底では待ち望んで

いるのではないか?

 ビルボは大人だが、旅をして成長するという点では、一人前になる前の若者

のようだ。その彼とドワーフたちを導き助けるのが、大人の先輩としてのガン

ダルフである。

 しかし彼は旅にずっとつき添うわけではない。途中でふっといなくなる。み

なは相談して難儀をきりぬけようとするがトロルにつかまり絶体絶命! その

時、彼は戻ってきて助けてくれる。ゴブリンにつかまった時も同様。しかし次

の「やみの森」でガンダルフは本当に去ってしまい、一行は自力で旅を続けね

ばならない。ここからビルボの活躍が始まる。

 初めは「すぐそばに魔法使いにいてもらいたい」と思いながら悪戦苦闘する

うち、彼の資質や特技は次々に開花していく。竜退治以降はガンダルフの再来

を期待せず、自分の知恵で苦境を乗り越えようとする。ビルボは一人前になっ

たのだ。その時、ガンダルフが再び現れ、最大の危難である戦争騒ぎを采配し、

ビルボの成長ぶりに驚き喜ぶ。



 「なんと、ビルボ!(中略)あんたは、どこかえらく変わったなあ! もう

むかしのホビットじゃないわい!」

 「…だがそのあんたにしても、この広い世間からみれば、ほんの小さな平凡

なひとりにすぎんのだからなあ!」



 このように“かわいい子に旅をさせ”、このように大きくその子も世界も包

みこんでくれる、理想的な導き手を、ぜひ読者自身に、また子供たちに、ほし

いものだと思う。



 (引用は瀬田貞二訳『ホビットの冒険』岩波少年文庫)

 (「児童文芸」2003年6・7月号掲載)


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