王女さまと魔法使いの結婚
 

 『トッペンカムデンへようこそ』の前半を

読んだあたりで、私は王位継承者であるロー

ラ姫と、職業的魔法使いであるレジーが、こ

のまま結婚することはできまい(ラズウェル

が早くも2話で指摘している)、と思ってい

ました。

 良き国王・良き魔法使いは、どちらも、私

利私欲を超越して公共に尽くすために力(権

力・魔力)を使うべきであり、それゆえか、

「王と魔法使いの結婚」は良くないこととさ

れている。この設定が物語を面白くしている

ポイントであり、最終的には、どちらか(ま

たは、どちらも)が地位・力を手放して結ば

れる、または結婚できずに終わるだろうと予

想していました。

  1巻の表紙絵:
  レジーはローラの〈影〉って
  感じですね。
 しかし、最終話で二人は国王&魔法使いとしてめでたく結婚します。

 国王と魔法使いの結婚。これは何を意味するのかしら、と考えたら、ユング

心理学(といっても、河合隼雄の本を読んだだけですが)の〈影〉や〈アニム

ス〉にまつわることどもが思い出されました。

 以下、私の中での、トッペンカムデンの一解釈です。

                そ や ゆうか
(あくまで一解釈であり、作者(征矢友花)さんの意図や、二人のロマンスを

楽しむのとは、別次元です!)


★ローラとレジーは対照的★


 単に、対照的な二人といっても、一筋縄ではいかないのが、面白いところ。

 たとえば、ローラは理性や秩序だった意識界に力を持つ「王」であるはずな

のに、彼女の表立った性格は、無鉄砲、衝動的、感情的。くるりと巻きあがっ

た髪が、彼女の性格にぴったり合っている感じ。

 逆に、感性や無意識界に力を持つはずの「魔法使い」レジーの性格は、メガ

ネをかけた学究肌で、合理的・常識的な言動を常としている。



    ローラ(光)

    レジー(影)

 女
 国王代理
 無鉄砲、衝動的
「ダイヤモンド姫」
  (光り輝くイメージ)
 ふだんは魔力なし
 身の内に精霊の魔力を秘める

 男
 魔法使い
 常識的、合理的
 黒衣、黒髪
  (黒、影のイメージ)
 魔法使い
 身の内に魔導王が巣くう




  
★ローラの「」としての「レジー」★


 物語の前半は、たいていレジーがローラを助けたり助言するパターン(1〜

7話16話19〜22話)。

 身の内の精霊魔力をまだ知らないローラを、意識界の〈自我〉とすると、彼

女と対照的な性格を持ち、しかも魔法使いであるレジーは、彼女の無意識界に

存在して、彼女を補完するもう一つの人格(〈影〉)といえるのではないか?

 ローラのアルター・エゴ(影の半身)としての「レジー」は、自我のめざめ

る時期(6歳)に初めて現れ(18話)、大人にならねばならない時期(16歳)

に再登場して、対立しながらも、やがてさまざまな面で彼女を支えてゆく。

 この過程が段階的に進むのが0〜7話。時間の流れに沿って見ていくと、

 0話:即位(=王位継承者としてのイニシエーション)を目前にして、知ら

ずに危機に直面しているローラに対し、「レジー」が現れ、彼女の体をダイヤ

モンド(硬直化した自我の象徴)に変えてしまう。しかし、硬いダイヤになっ

たおかげで、彼女の体は暗殺をまぬかれ、無事保たれる。その間、彼女の幽体

はレジーの森(無意識界)を訪ね、二人でシャイデックの陰謀を知ることがで

きた。

 ローラの「影の半身」である「レジー」がローラ自身と反発、やがて和解、

協力、対等に向き合うさまが描かれている。最後の場面でレジーを自分の城

(心)に迎え入れるローラは、最終話の二人の結婚(光と影の合一、まったき

〈自己〉の実現)を先取りしている。この話は、全編の縮図といった構造。

 4話:「レジー」が無力となった時、ローラは城(=彼女の心)の中に迎え

入れ、休ませ、原因となる虫を見つける。知らず知らずのうちに、ローラは

「レジー」の機能を回復させるが、回復するやいなや「レジー」は無意識界へ

帰ってしまう。

 5話:レジーの薬を飲んで6歳(レジーと出会った時)へ戻ってしまい、二

人の間柄もぎこちない。これは、ローラの中で「レジー」がまだうまくはたら

いていないという意味だろう。

 1話:ローラは魔法使いに変装しても水の精霊を鎮めることはできない。

「レジー」という「影の半身」の助力を得て、初めて精霊鎮めに成功。ただし。

レジーは別人(〈老賢者〉シャルロッテ)に化けている。まだ、そのままの姿

ではローラは助力を受け付けない(まだ「レジー」をうまく利用できない)。

 6話:困ったことがあると、すぐに「レジー」を呼ぶローラだが、依存しす

ぎて失敗する。ローラとレジーの会話かみあわず、魔法の助力もなし。「レジ

ー」をいまひとつ御しきれないローラの表情が、最後の場面。

  7話:ゼフォーと彼が暴走させたカノッツァから、レジー(影の半身)を救

おうとして、ローラ自身の精霊魔法が目ざめる(そしてカノッツァを封じる)。

 最後の場面でローラを訪ねるレジーの姿は、初のなごやかな「和解」。

 2話:レジーが初めて自発的に、ウォルツワルド逗留中のローラを訪れるが、

反発される。窮地に陥ったローラは、魔法のクルミという道具を介して、「レ

ジー」の助力を得る。まだ意識的にうまく「レジー」を利用できない(クルミ

が割れたのは偶然)。

 3話:ローラは魔法のクルミを意識的に割る(自発的に「レジー」を呼び出

そうと試みる)が、レジーは現れず。窮地に陥り、無意識的に鏡の前で呼ぶと

現れる。「レジー」によって、ローラは無意識界へ避難(熟睡)できた。その

後もレジーはローラを鏡の中から見守っている(「レジー」の無意識界での存

在確立)。

 ローラ、レジーに「シャイデックを助けて」と頼む(「レジー」を自発的に

利用するのに成功)。レジーとのキス(「和合」)。

 レジー、ローラの死を肩代わり。これは、ローラ側から見ると、「レジー」

の最高度の利用。しかし、「レジー」を使い果たしてしまい、レジーは半死で

去ることになる。



★死の精霊★


 ローラの姿をした死の精霊がレジーに取りつく場面(3話)は、なかなか迫

力がある。これは何を意味するのだろう。16歳で死ぬ予言というと、「いばら

姫(眠り姫)」を思い出す。この童話では、姫の眠りと王子による目ざめは、

乙女としての死と成熟した女性への再生(女性のイニシエーション)を表すな

どと言われるが、ローラの場合は、国王代理として戦争にのぞみ、暗殺されそ

うになった。戦争は、大切に守られ王女から、国を守ってゆく王になるための

試練といえるだろう。

 裏切り者を城壁から投げ落とせと命じた直後のローラの表情が、印象的だ。

いつもの愛らしい夢見がちな乙女とは一変し、頬に血をつけた、すさまじい怒

りの表情。0話では反逆者シャイデックに対して裁判をするなど寛大なところ

を見せたローラが、今回は情け容赦のない態度を取っているのに驚かされる。

戦争で多くの血が流されたことが、無垢のローラをそうしたものに変えたのだ

ろう。

 大義や勝敗はともかく、戦争で流された血、城壁から投げ落とすという殺人

行為、彼女の頬に飛んだ返り血、それらの負い目が、死の精霊となって彼女に

襲いかかる。その時、彼女の無意識界の半身である「レジー」はその負債をす

べて背負って、意識界の自我(ローラ)の破滅をくいとめる。

 戦争後もローラが戦争行為そのものに深く傷つくことなく、無垢で純粋なダ

イヤモンド姫でいられたのは、レジーが負の部分をすべて引き受けてくれたか

らである。言い換えると、戦争後のローラはダイヤモンド姫としてますます活

躍しているが、その裏で人知れず彼女の無意識界は壊滅的打撃を受けて瀕死の

状態にあり、常に「死の衝動」に取りつかれていたのだ(戦争帰りの元兵士が

自殺したり社会に不適応な症状を示すといったことを思い出す)。そして、無

意識界の支えを失った自我(ローラ)は次第に疲れ果て、過労で倒れる。

 さて、8話〜13話は、ローラとレジーそれぞれの単独での成長や実力が描か

れていて、一種の「修業時代」のような感じ。離れていてもローラはレジーを

夢(「無意識の王道」)に見ている。そして探索の最後に意識不明となったレ

ジーを、夢の中で現世に呼び返すのは、ローラ(意識界の自我)だった。

 最後に、倒れたローラが休息する(無意識界へ隠遁する)と、そこへ死の衝

動から癒えたレジーが帰ってくる。かくして彼女の無意識界は再びあるじを得

て、息を吹き返す。

 現実には、再会しても二人の恋はすれ違う。ただ、レジーとローラの反発は

一瞬で終わり、レジーは城(ローラの心)に居場所を確保して二人は和解する。

 続く15話・16話では、以前の通り、レジーがローラの助力者となる。以前に

くらべてローラは「レジー」をうまく使いこなしているようで、17話では二人

が初めて共同で動いて、ラズウェルを助けてやる。19話はレジーがローラを救

うのに失敗するところ(ローラは精霊たちに救われる)等が他の話と違い、後

半の焦点である「ローラの身の内の精霊の魔力」への橋渡しになっている。



★補完しあう二人の魔力★


 このように、レジーがローラを魔力で助けるのが基本パターンとなっている

が、時折、レジー(というより、彼の持つカノッツァの杖)の魔力が暴走する

ことがあり(0話7話24話30話最終話)、その時はローラが彼女自身

の持つ精霊の魔力でレジーを救う。とくに、20話以降(物語後半)では顕著。

 面白いのは、二人の魔力が同時には働かないところ。レジーが健全に魔力を

ふるう時には、ローラの内なる精霊の魔力は沈黙している。レジーが理性を失

うと、それを補うかのようにローラの精霊の魔力が働きだす。

 たとえば7話:レジーがカノッツァを制御しきれず失神した時、ローラがカ

ノッツァを鎮めてしまう。

 24話:レジーが魔導王グラムに乗っ取られた状態の時、ローラが「見てたん

ならなんとかしなさいよ、カノッツァ!」。この一言でいっときにせよグラム

は抑えられ、レジーの人格が甦る。

 再びグラムが現れてレジーが封じられている間(25話〜27話)、ローラは戴

冠の間に入ったりして魔力全開状態だが、28話でレジーの人格と再会する時は、

彼女の魔法は精霊王によって封じられている。レジーの体にグラムが戻ると、

ローラは女王の冠をかぶって魔力が復活する(29話)。

 31話ではローラがレジーの内に入り込むが、この時だけ、レジーの内界で、

ローラとレジーはともに魔力を持ち、協力してグラムに対抗する。ただし、最

初に魔力を使うのはレジーで、彼が敗退して無力を露呈したあと、今度はロー

ラが魔力を振るい、グラムをレジーの外へ追い出すばかりか、ついにはカノッ

ツァにも打ち勝つ。

 最終話で、ローラは再び冠を得て魔力をふるい、廃人だったレジーを目ざめ

させるが、そのことで冠は精霊王の手に戻り、ローラの魔力はなくなったよう

である。

 ただ、戴冠・結婚後の二人の魔力については多少ナゾが残る。レジーは復活

して魔法も使えるが、カノッツァの杖を失い破門された彼に、新しい杖は手に

入るのだろうか? 女王ローラの夫となった身分で、魔法使いという職業を続

けられるのか? 一方ローラは、王位も精霊の魔力も手放す決心をしたが、結

局王になることができた。精霊王も戴冠の間の鏡の中に居るし、必要とあらば

また魔力を振るうことは可能ではないかと思われる。彼女の中にはいぜんとし

て精霊の血が流れているわけだから。

 とすると、国王にして魔法使いのローラと、魔法使いにして王の配偶者のレ

ジーという、最強カップルが誕生したわけで、やはり他国が反対するのも無理

はない、という感じ。



★ローラの〈アニムス〉としてのレジー★


 物語の後半では、ローラのレジーへの恋愛感情がよりはっきりしてき、レジ

ーは彼女の〈アニムス〉(=女性の心の中にある男性像)だともいえそう。河

合隼雄によるとアニムスの特徴は「論理性」「強さ」「ロゴスの原理」で、レ

ジーの性格にわりとぴったり。

 前半では、ローラはレジーに対し、女性として恋愛感情を抱くというより、

国王(大人の立場)の重責を担わされた未成年者が、頼りになる大人に甘えて

いる印象が強い。(レジーの側から見ると、ローラは最初から最後までかれの

憧れの女性〈アニマ〉である。)

 しかし、戦争の時のキスとその後のレジーの不在をきっかけに、ローラはじ

ょじょにレジーを異性として意識し「本気の愛」に目ざめ、それゆえの悩みも

出てくる。

 レジーが〈アニムス〉になってきた時、ローラの前には別の(というか本来

の)〈影〉、同性で血のつながりもあるのにすべてが対照的なマドレーンが出

現する(20話)。



    ローラ     (いとこ)  マドレーン

 ダイヤモンド姫(光)
 赤い髪
 小柄でやせっぽち
 レジーに恋する
   ★★二人が手を結び、敵
 レジーを救い魔力を失う

  宵闇の魔女(闇)
  黒髪
  大柄でグラマー
  レジーに色仕掛け
を倒す(影との合一)★★ 
  グラムとともに消滅


 ローラとマドレーンの合一は、見事である。精霊王がマドレーンの「魔力を

封印するか…この世から消すか」と言ったことに対し、ローラはトッペンカム

デン(ローラの心)へマドレーンを連れてゆき協力しようと提案する。〈影〉

を排除するのではなく、〈影〉と手をつなぎ迎え入れる。その時、二人は補い

合ってまったき〈自己〉となり最強のパワーが生まれる。

 ところで、本来、〈影〉(同性)と〈アニムス〉(異性)は別のモノだが、

私が感じるのは、女性作家の描く女性主人公が運命的な恋をする相手に、時々、

女性主人公の影の部分を背負った〈アニムス〉が描かれているのではないかと

いうことだ。

 そういう場合、二人の結婚は、「光と影の合一」、「まったき人格の誕生」、

「自己実現」、「世界の一体化」である。たとえば、『ベルばら』のオスカル
                   くら    さ や  かぐ   ち は や
と、アンドレ。荻原規子『空色勾玉』の闇の巫女狭也と、輝の皇子稚羽矢。ど

の場合も、最初は恋の相手というより、補い合う半身どうし、という感じがす

る。



おまけ: 魔導王グラムとの対決★


 さて、ローラの〈影〉であり〈アニムス〉であるレジーの内に巣食っていた

グラムが現れる。21話以降に出てくる世にも醜悪で恐ろしい魔物とともに、彼

が棲んでいるのは、ローラ(そして世界)の奥深く、集合的無意識と言われる

領域らしい。

 もともと「レジー」の中には、カノッツァを暴走させると魔人化する部分が

あったが、ローラが彼を異性として意識し始めたとたん、新たな〈影〉である

マドレーンがグラムを喚び、集合的無意識から魔物(グラムをふくむ)が襲う。

レジーはおろか、しまいにマドレーンまでそこにのみこまれそうになる。この

ような「世界(=自己)の危機」は、多分、ローラの女性としての成熟に関係

しているのだと思う。

 個人の無意識界に棲む〈影〉とは違い、集合的無意識から現れる魔物は、超

破壊的。しかし、〈自我〉であるローラが積極的に行動し追いかけることで、

封じる希望が出てくる。

 この時、もう一つ現れる力が、精霊王の魔力である。王家の血に流れる力で

あり、「戴冠」(=成人。マドレーンの女王の冠をも指す)すると出現する力

は、ローラとマドレーンによって振るわれ、女性の根源的魔力というような印

象*注。

「女の子が乙女に変容すること以上の「魔法」が、この世にあるだろうか。…

そのような「魔法」は、少女の内界において生じている。」(河合隼雄)

 凄まじいパワーのぶつかり合いで世界をかなり壊し、マドレーンの命を犠牲

にし、「レジー」も仮死状態となって、ようやく魔物は封じられる。これが、

ローラの女性としてのイニシエーションだったのだろうか…

 最終話で、バルコニーから落ちるローラは、レジーの腕の中へとびこむ鳥の

よう。(無意識界へと)落ちてくる彼女をレジーが受け止める場面は、最初の

出会いの6歳の時(18話)にもあったが、あの時と違うのは、ローラがレジー

を認めて落ちる(腕の中にとびこむ)というところ。

 かくしてダイヤモンド姫と影の魔法使いは結ばれて、「光と影の合一」、

「まったき人格の誕生」、「自己実現」、「世界の一体化」の大団円となる。

この結合からは、新たな世界の誕生(「子宝に恵まれ…」)の予感がある。
*注 このあたり、O.R.メリング『夏の王』を読んでいると、共通するパターンが感

じられた。レジーと同じように、黒服で(不良だが実は)学究肌のイアン。彼の身の

内には生まれた時から、魔導王にまさるとも劣らぬ破壊的なパワーを持つ〈夏の王〉

が居て、時に二重人格症のような状態を呈す。

 〈夏の王〉を幽閉した、年ふりたワシの王ライーンも、かつて魔導王をおさえこん

だ老賢者シャルロッテ(ワシが使い魔)のイメージと重なったりする。

 ローラの力(精霊王の力=戴冠、つまり成熟した「女王」としての愛の力)がレジ

ー(と世界)を救うように、イアンを救うのは、探索行というイニシエーションを経

たローレルが認識した、彼への愛である。

 ローレルとオナーの双子は、ローラとマドレーンの対とは多少違うが、やはり光と

影を表すように思え、世界の一体化のための犠牲として、〈影〉であるオナーの現世

での死がある。ただしオナーは妖精界で女王となって永遠化される。マドレーンも犠

牲となって消滅したが、その後、彼女は初めて「王女」としてトッペンカムデンの城

に肖像画となって迎え入れられ、国史に記されて永遠化される。

 ローラが最後にレジーを現世に呼び戻したように、ローレルはイアンを現世に連れ

戻し、二人の心が結ばれたところで、『夏の王』は終わる。




おまけ: 〈トリックスター〉としてのシャイデック★


 彼はむかし、「英雄」である。それから謀反人となり(0話)獄につながれ

るが、復活してローラに仕える「忠臣」となる。なんと変化する人物だろうか。

 外見も、他の登場人物と違い、次々に変わる。

 そして、ローラとレジーの関係を結び合わせる重要なカギをいつも握ってい

る。

 0話で、ローラの戴冠式(イニシエーション)に、無意識界からレジーを呼

んだのは誰か? シャイデックである。もし呼ばなければ、ローラは無知で高

慢な少女のまま、王位について、暗愚な王になってしまったことだろう。

 シャイデックはローラの父に見込まれた人物であり、大臣としてずっと城

(ローラの心)に存在してきた。謀反を起こすのは、ローラが未熟だからであ

り、結果的にローラの成長を助ける役割を果たす。

 14話、レジーの情報をつかみ、彼を再び城に迎え入れるのは、シャイデック

である。

 19話、レジーとローラの危機に際し、最後にゼフォーを倒したのは、シャイ

デック。

 最終話で、レジーとの結婚を世界に認めさせるのは、シャイデックである。

 英雄になり破壊的になり忠臣になり、主人公とアニムスの仲を取り持つ彼は、

〈トリックスター〉なのだ。



 おまけのおまけ:このように考えてくると、かわいそうなラズウェルは存在

感が薄い。最初から最後まで、ローラにとっては対等な「よきお友達」。

 ウォルツワルドとブリューネルの王太子になってしまった時点で、ローラと

の結婚はありえないな、と思った。トッペンカムデンが王女の婚姻によって他

国と合併なんて考えられない。ラズウェルがローラと結婚するには、入り婿で

なければならないはずなのだから。

 それにしても、ローラの内なる精霊の魔力に気づいた時の、愕然としたラズ

ウェルが気の毒だった。



  ★ご意見・ご指摘・ご感想はHannaまで。お待ちしています!

参考文献

 河合隼雄 『ユング心理学入門』(培風館) 、
      『ファンタジーを読む』(楡出版)、
      『影の現象学』(講談社学術文庫)、
      『昔話の深層』(福音館書店)

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