3.マクロコスモスとしての“一つの指輪” (つづき)

C)創造主

             リング
 ビルボは自然という大きな輪についていくらか知り、感じているようだが、
                              デザイン
その輪の全てを知ることは誰にもできない。「我々一人一人の旅は意匠の中の

一本の糸でしかない。我々は意匠全体を知ることはできない」(38)のである。し
            ヴィジョン
かし時として、その意匠が幻視や夢として、ちらりと垣間見えることがある。

特に物語の中の各々重要なポイントではそうである。そして「その者が賢いほ

ど、より深くその意匠を見ることができる(39)。」そこで、もう一つの階段(グ

ラデーション)が存在することになる。それは、《表2》に示されるように、

ある者の見通す能力のグラデーションである。



《表2》見通す能力の階段(グラデーション) 

ほとんど幻視することができない
       ↓
魔力や、夢によって幻視すること
ができる
       ↓
遠くを見通す力をいくらか持って
いる
       │
       ↓

「ほとんど天啓的な統率力を発揮
する」*

ドワーフたち:ギムリ
ホビットたち:メリー
       ピピン、サム、
       フロド
人間たち: ボロミア
       ファラミア
       アラゴルン
エルフたち:ギルドール、レゴラス
    エルロンド、ガラドリエル

ガンダルフ
 
 
 *グラントP.97



 注目すべきことは、最も力ある予見者ガンダルフの能力は「ほとんど天啓的」

であるが、天啓そのものではない、ということである。「すぐれた賢者ですら、

末の末までは見通せぬものじゃからなあ」[1巻109]。また、「なぜならかく申

すわしもまた執政ですからな」[5巻33]とガンダルフは言っている。では彼に

とっての王は誰なのか? 誰が、真に天啓的な力をふるっているのか? ガン

ダルフはそれについて一つのヒントを与えてくれている。



   その背後には、指輪の造り主【サウロン】の意図をも越えた、何か

   別のものが働いていたじゃろう。…ビルボはその指輪を見つけるよ

   うに定められていた、ただしその造り主によってではないと。そう

   だとすれば、あんたもまたそれを所有するように定められているこ

   とになる。                    [1巻107]



 「一個の召使い、あるいは使者にすぎぬ」[5巻268]サウロンを越えた上に、
   デ ザ イ ナ ー
真の意匠のつくり手、真のマクロコスモスの指輪の主(Lord of the Rings)が

存在するのだ。それは、「至上神(the One)」[6巻285]、「エル」又は「イ

ルーヴァタール」[『シルマリルリオン』上13]と呼ばれる創造主である(40) 


  (38)…ジンバルドP.70
  (39)…グラント P.103
  (40)…参考:ロジャーズP.143、ジンバルドP.64

†〈幻視の能力〉 …表2解説

ドワーフ族:最も現実的・現世主義で、過去や先のことは余り考えない。「思

い出は心の望みとは違う。思い出は鏡にすぎぬ」、「そのような予見はドワー

フには不可能なことだが」[ギムリの言葉]

ホビットたち:他の力を借りて幻視する。またフロドは度々、暗示的な夢を見

る。

人間たち:アラゴルンはモリアについてガンダルフに悪い予感がすると警告す

る。ファラミアはヌメノールを夢に見る、などなど。

エルフたち:レゴラスの予見力はしばしば発揮される。ガラドリエルは強力な

予言者でもある。エルフの歌には幻視を見させる力がある。

ガンダルフ:「わしは遠く離れたものをいくらも見ることができる」

‡〈創造主の存在〉 …創造主の存在は隠されているが、

 a)幻視力によって垣間見ることができる。

 b)“神の使徒”的な存在によって示される。例えば『指輪物語』におけるガ

ンダルフ、エンデ『モモ』のマイスター・ホラなどユング心理学の言葉でいう

「老賢者」によって。

 c)偶然や運命、天意(天啓)として直接示されることがある。この場合、創

造主は土壇場で現れる。『指輪物語』『ホビットの冒険』の最後では「鷲が来

たぞう!」の叫び声とともに主人公は危機を脱する。マカヴォイ『ダミアーノ』

でも、絶体絶命の事態で天使ラファエルが介入する。「できるだけのことは全

てやったというこの時にこそ、神意が介入する」[ジンバルドP.69]一方、

悪行に対する天意も土壇場に「天罰」として現れる。

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