海鳴り あれこれ
未発表イラスト & 詩


  イラストレーターの君島美知子さんが描いて下さった絵と、
それにインスパイアされたHANNAの詩をご紹介します。
転載禁止! 絵・詩ともに著作権があります。



 夢の恋人 フェナフ・レッド&サティ・ウィン


夢が 消えないうちに
きみを 見つめていたい
ふたたび 目覚めれば
もう 会えない

 木もれ日の レースをまとい
      かげろう
 歩むきみは 陽炎
 時はなぜ 至福のうちに
 停まらぬのだろう

――はるかなむかし
神々の夢の中で
僕らは出会い恋をした――

祭の 果てた夜ふけに
きみが 去るのを見ていた
月影に きらめいた
あの ほほ笑み

 花の香を ふりまきながら
 踊るきみは 精霊
 いつか春は 忘られぬ歌のように
 まためぐり来るだろうか
   バ ー ド
――弾唱詩人たちのくり返す
歌物語の中で
僕らは出会い恋をした――

by Hanna






「祭の宵」





  月下の踊り フェナフ・レッド&サティ・ウィン


 神々の装束をまとい
 月あかりに誘われて
 今宵 踊れば
 初めて会ったあの時が
 よみがえ
 甦る

  星姫よ わが心のたけを
  このひとときにこめて

 花々の香りをまとい
 くり返す古き旋律にのり
 今宵 踊れば
 眠らせていた熱き想いが
 ふきあげる
        な
  花の乙女よ 汝が面影を
  さすらいの胸の奥に刻みて

  木々よ 忘るな
      もと
  この月の下
  言葉もなく ただ手をとりあって
  踊り続けたわれらのことを

 星々の変わらぬめぐりのうちに
 ふたたび春が来て
 花と開けば
  と わ
 永遠なるわれらが恋の踊りぞ
 甦らん

by Hanna










「祭の宵」




「祭の宵」  もともとは、第3巻の扉絵候補だったのですが、使わないことになったのを、私が特に頼んで絵はがきにしてもらいました。
  もとになる場面は、第2巻の終わりの方、主人公とヒロインが「樹」と「花」に仮装して踊るところです。

  中山星香の『妖精国の騎士』に、主人公ローゼリイが春の祭で仮装してアーサー王子と踊る場面があります。ローゼリイは花の精、アーサーは夜の精の仮装をしています。
  …すごく似ているんです、実は。
  私の方は、もとは20年ほども前に思い描いた場面でしたが、後年『妖精国の騎士』を読んで、既視感にくらくらっとしました。その後、本にするにあたって、あんまり似ているから変えようかしらと思いましたが、うまく変えることもできず、まあいいや、「仮装舞踏会」という場面設定はティピカルなのよ、と開き直った次第です。








「ジルカーン」

 鎮魂の楽士 ジルカーン


夏草かおる祭の宵も
風泣く夜の炉端でも 
炎おどらす その楽の音は
忘れし思いに命吹きこむ

 右へ、左へ 指が舞えば
 人びとの胸に火がともる
 高まり、静まり 連なる和音は
 うつしよ
 現世を越え 女神のもとへと響く
ル ビ アー ナ ブ
火炎琴弾きよ、女神の楽士
調べの魔法に酔う人びとのかたわらで
恋の歌、戦の歌、酒場の歌を
奏でつづける そなたが孤独を誰が知ろう
        まきば
眠けもよおす春の牧場も
         いち
賑わい絶えぬ秋の市でも
まぼろし織りなす その楽の音は
来たるべき英雄に命吹きこむ

 右へ、左へ 指が舞えば
 人びとの目に炎ゆらめく
 高まり、静まり 連なる和音は
 かみよ     い ま
 神世の吐息を現世に伝える
クリエバンセ
共鳴者よ、女神の楽士
火影に映るなつかしき日々のかたわらで
     い ま
昔の歌、現世の歌、輪のめぐりの歌を
奏でつづける そなたが孤独を誰が知ろう

旋律は そなたの内からあふれ
日々はただ そなたのかたわらを流れ去る
いくたび、奏でれば
いく夜、唄えば
その身に灼きついた血の記憶を
忘れることができるのだろう
鎮魂の楽士よ、今宵もまた
そなたの楽の音が聞こえる

by Hanna




「ジルカーン」  これは2004年、東京・神楽坂のパルス・ギャラリー8周年企画展に出展されたもので、物語の登場人物の一人、炎を操る呪術師にして吟遊詩人、ジルカーンのポートレイトとなっております。

  じつはジルカーンというのは、数ある脇役の中でも、私がもっともつかみにくかった人で、物語を書いていてかなり手こずりました。ところが、なぜかこの人、イラストレーターの君島さんのお気に入りらしく、3巻上の表紙絵にどーんと描いてもらったりして、私を驚かせました。

  そして、このポートレートを見たとたん、私はジルカーンという人を急に理解したような気がしました(すでに完結編出版のあとでした。遅すぎる!)。そして、あっという間に、上のような詩をつくってしまいました。



 かみ よ
 神世の記憶 ヴィオルニア

かしこ
彼処と現世の境界は
いつも赤い嵐
太古の呼びかけだけが
それを越えて届く

母の胸でわたしは
渦巻く風の歌を聞いた
蒼白い空を流れる
異教の魔術師の呪文のように

  神世、空も大地も若く荒く、
  地上では王たちが
  ぶつかりあう波のように戦をしていた
        と き
飛竜をとりまく時間のとばりは
いつも濃い黄昏
つばさがそれをたぐり寄せ
かきわけて彼処へと抜ける

竜の背でわたしは
星々のまばゆい予兆を読んだ
はっか
薄荷色の氷湖に映る
異教の魔術師の封印のような

  神世、星も太陽も若く明るく
  地上では人々が
  風の日の枯草のように臥して祈っていた

  けれどわたしは此処に立ち
  手のひと振りで竜を去らせる
              な か
  若く熱い記憶はわたしの内奥、
  人知れず赤く深く流れつづける

by Hanna






「ヴィオルニア」




「ヴィオルニア」  これも上と同じ企画展に出展されたもので、物語の登場人物の一人、太古の「神世」から時を越えて飛竜を呼び寄せる、女竜使いヴィオルニアのポートレイトとなっております。
  数少ない女性キャラクターの中で、君島さんが気に入ってくれたのがこの人でした。









「ヴァスカ・シワロフ」

 剣士の生 ヴァスカ・シワロフ


倒すべき敵のために
剣はうたい 刀身は輝く
青じろい切っ先が
        いん
俺という存在の印を結ぶ

戦うべき相手のために
     やいば
剣は舞い 刃はひらめく
闇を切り裂いて 俺は
己が居場所を確保する

 竜よ おまえは究極の
 生の相棒
 おまえがいてこそ 俺は
 剣を掲げていられる

救うべきひとのために
人を斬り 命を断ち切る
零れる血と吐息を
道しるべとなすがごとく

護るべきひとのために
剣をふるい 大気はふるえる
ふりむくこともできぬまま
俺は戦いつづける

 姫よ これは忠誠でも
 なんでもない
 貴女がいてこそ 俺は
 剣士として生をつなげる

 踏みこむ足、
 振りおろす腕、
 なびく髪。
 俺という存在を
 闇から切りだし、
 かたちづくる、
 剣こそ俺の生。

by Hanna




「ヴァスカ・シワロフ」  これは2005年、上と同じギャラリーの9周年企画展に出展されたもので、物語の登場人物の一人、剣士ヴァスカのポートレイトとなっております。




 放浪の狼 A wolf with white fangs and a silver blade

     し だ
 湿った羊歯の香を胸に満たし
 ひそむ 俺は森の狼
       よ
 狩人の血の喚ぶままに
 明け方の月の下 牙を研ぐ

 蜜色の日ざしに目を細め
 寝ころぶ 俺は真昼の狼
 絶えまないせせらぎに あやされて
    ほら
 岸辺の洞で 四肢を休める

  夕凪の静けさに
  よみがえる彼方の喧噪――

 群青の夜風に髪を揺すられ
 たたずむ 俺は町の狼
  ぬ き や
 密輸商の船の入る波止場で
 忍びやかな足音に 刃が光る

  放浪の日々の胸のうち
  知らずまたたく故郷の港の灯――

 森を往き 荒れ地を往き
 運河の橋を渡れば 海が見える
 狩をして 恋をして 酒場に眠る
              あ る じ
 俺は狼 白い牙と銀の刃の持ち主

by Hanna






「バズ」




「バズ」  2005年、上と同じ企画展に出展されたもので、物語の登場人物の一人、狼男バズと連れの狼フォディのポートレイトとなっております。
  バズは私のお気に入りの脇役の一人で、実は、彼(の少年時代)を主人公にしたパラレル(エセSF調)作品もあります。上の詩の中の「町の狼」というのは、そちらのバズを指しています。たいした話じゃありませんが、もし興味を持たれたかたは「安らぎの港町」からどうぞ。




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