映画「ロード・オブ・ザ・リング」
〜第1部「旅の仲間」


――原作マニアの立場からの独善的感想


 ◎‘よくがんばりました!’


 トールキンが生涯かけて創り続けた中つ国を、あれだけがんばって映像化す

る、その意気ごみと努力と成果に、まずは脱帽。

 「スターウォーズ」から幾星霜、SFXの進歩にはほんとうに驚かされます

ね。

 ストップモーションでいちいち名画のように鑑賞したい映像美。パノラマが

すばらしい(アルゴナスの石像に特に感動!)のはもとより、たとえば袋小路

屋敷の内部など、マニアにはたまらない緻密さでした。

 舞台設定だけでなく、登場人物もストーリー展開も、細部にわたるまで原作

に忠実に!という努力がひしひし伝わってきます。エルフ語でのセリフが出て

きた時には、「ここまでやったか!」とうなりました。原作を読んだ人を裏切

らないという点で、非常に好感を持てる映画でした。


 ☆マニアの強欲

  ――3時間では足りません。3部作を6度に分けてつくってほしい。


 もちろんですが、映画化で省かれた部分が多くあります。当たり前です。で

も、あそこまで原作に忠実にがんばれるものなら、もっともっと見たい! と

果てしなく欲がわいてきます(指輪ののろいのごとし)。ボンバディルの歌が

聞きたい。塚山の恐怖を体験したい。そしてエルフの歌を聞きたかったですね。

当然かもしれませんが、アクションシーンは原作より充実し、その分、「静」

の部分が省かれています。特に私はトールキンの歌が好きなので、残念です。

 他の映画になら、そこまで求めません。でも、躍る小馬亭の隅に座るストラ

イダー(アラゴルン)の、原作そっくりな姿を見たら、彼に荒野でルシエンと

ベレンの歌を(さわりだけでもよいから)歌ってほしい!(注) ロリエンのエ

ラノールの野原でアルウェンを想ってたたずんでほしい! と願ってしまう、

そんな映画でした。

 でもそんな場面をいちいちやっていたら、裂け谷につくところで3時間経っ

てしまうでしょうね。つまり(評論社の文庫どおりでなくてもいいけど)2倍

の長さで見たい!です。今回の映画が21世紀の映画界の収穫というなら、二

十数年前のバクシのアニメ版からの進歩に感動しますが、それならあと四半世

紀後には、2倍(以上)の長さの『指輪物語』が創られるかしら?


 (注)4枚組DVDでは、この場面があります! 原作とは違うけど、スト

   ライダーがさりげに口ずさむのも、なかなか雰囲気がよろしい。ただ、

   ルシエンのことを説明する時、やや表情が暗いのが気になりましたが。


 ◇登場人物――人間は美わし! エルフは…  


 これも当たり前ですが、アラゴルンとボロミアがかっこいいですねえ。高校

時代に初めて原作を読んだ私は、もちろんアラゴルンに夢中でした。オトメご

ころが夢に描いたヒーロー像が、この映画でよみがえりました。

 原作ではそれほど強調されなかった?レゴラスも、美形です。飾っておきた

い。でもちょっと人間みたい。

 ギムリはいい味出ていたので、もっともっと出番がほしかったです。ガラド

リエルを敬愛するようになる場面がなかったのがとても残念。期待していたの

に。(注)

 原作の特徴である長々しい名ゼリフも、かなり再現されていました(字幕で

は割愛されまくってましたが、しかたないですね)。でもここでも欲が出て、

どの登場人物にももっと語ってほしい、と願ってしまいました。

 悪役の皆さんのおぞましさは(専門外なんですが)、映画ならではの物凄さ。

トールキンもびっくりのオークらしいオーク、ウルクハイらしいウルクハイ。

ただ私だけでしょうか、偉大なる御目様が、大きすぎて、縦長の亀裂と見えて

しまったのは。

 不満が残ったのは、エルフの皆さんです。でも、人間が演じるには、限界が

ありますよね。生身の俳優さんがやっているのだから、歳月を超えたおもざし

だとか… そりゃ無理です。こんなことを思うのは、原作の格調高く長ーい描

写を愛しすぎたこともありますが、アニメとコミックのせいでもあります。た

とえば中山星香の描くような、超人的な美しさの妖精王をふだん見慣れている

と、映画のガラドリエルの幽玄の美はちょっと薄っぺらい。エルロンドは黒髪

とか額の飾り輪とか、がんばっているけど、威厳が足りない。

 でもアルウェンは、美しかったですね。原作にはない活躍のせいでしょう。

あの美しさで馬を駆り疾走する場面はルシエンもかくやの迫力でした。喝采。

 最後に、ホビットたちはよくできていました。まあ、イメージしやすいキャ

ラクターなのでしょうが。フロドだけがちょっと私の思い描いていたのと離れ

てましたが、それはそれ。原作と違って、青年という設定ですから、ああなる

のでしょう。第2部以降の彼らの成長が楽しみです!


 (注)この場面も、4枚組DVDには、ちゃんとありました!


 ▽まとめ


(1)よいと思った所

 映画のパンフレットの厚み。

 大筋で原作に忠実だったこと。

 ロケした大自然パノラマとCGのつくりものとが割合マッチしていたこと。

 エルフ語をせりふに取り入れたところ。

 アラゴルンの風貌・活躍。

 フロド以外のホビットたちの風貌・性格。

(2)気に入らなかった所

 ガンダルフとサルマンの魔法バトルがプロレスみたいだったこと。ハリポタ

   ・レベルの小手先魔術のようで不愉快。本物のイスタリ二人が、あんな

   にドタバタするわけがない。

 エルフの外見とエルフに属する場所が、少しちゃちだったこと。

(3)原作との違いが気になった所

 フロドの年齢設定。若すぎる。あんなういういしい青年が指輪を「捨てる」

   旅に出られるだろうか?

 ガラドリエルが指輪を退けるシーン。彼女の心の中でとうに指輪を退ける選

   択は済んでいた、と思うので、あの場で初めて指輪の誘惑と戦うかのよ

   うな、人間レベルの葛藤の描写は変だと思った。

(4)原作へのこだわりを感じた所

 セリフ全般。原作の「名ぜりふ」を、できるだけ使っている。原作とは違う

   セリフでも、原作の雰囲気をこわさないようにとの配慮が感じられる。

 袋小路屋敷の内部など、細かい舞台づくりまで原作に忠実。

             ――「白の乗手」のアンケートにお答えした一部です。


 ○おまけ


 5歳と1歳の子供をほっぽって、3時間の長編を見に行ってきました。前世

紀末の映画化決定以来、「待ちに待った」公開ですから、万難を排して。

 内容をどうこう言う前に、別世界の映像化ということだけで感動したのは、

エンデの「ネバーエンディングストーリー」以来でした。

 第2部を待つワクワクがまた、たまらなくうれしいものです。
 

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