映画「ロード・オブ・ザ・リング」
〜第3部「王の帰還」


――原作マニアの立場からの独善的感想


 ◎よくぞあれだけ、つめこみましたねえ!


 第2部のストーリーの進み具合が、原作に追いつかずに終わったので、残り

全部を3時間につめこめるのかしらと、心配していました。予想通り、あの場

面この場面、あの人この人、エピソードてんこもり。ピーター・ジャクソンさ

ん、よくぞここまで執念でつめこみましたね。つめこんだわりには、場面が切

れ切れにならぬように、苦労してつないでいるなあ、と感じました。

 そして最後の、黒門の戦いとフロドの最終行程が刻々と同時進行して、つい

に指輪消滅の時、ぴたっとタイミングが合うところは、これまでの錯綜した場

面をきゅっとひきしぼった統合感、映画ならではの技ですね。

 そして、ここぞと描きこんだフロド―サム―ゴラムの、それぞれの心の葛藤

が極限状態での人間関係に反映されていくところ、原作とは違う部分もありま

したが、映画は映画として、深くつっこんで描いていたと思います。


 ☆つめこんでも、まだまだ。圧倒的に短すぎ。


 完結編なので、前2作にもまして「これでは足りない」と感じました。「ホ

ビット庄の掃討」がごっそり省かれたのは仕方なしとしても、サルマンの後始

末、ファラミアとエオウィンのロマンス、などがないので、これらの人物のこ

れまでの描写が宙に浮いたまま、決着しません。

 それから、アラゴルン。「王の手は癒しの手」の場面なくしては、「王の帰

還」の実感がわきません。合戦での武勇よりも、ファラミアたちを癒したこと

でこそ、ミナス・ティリスの人々に「王の帰還」が野火のように広まっていっ

たはずなのに。

 あと、フロドとサムのモルドールの旅は、あまりに長く重苦しいので、短縮

されたのはまあよしとして、とらわれのフロドをサムが発見する場面、歌って

ほしかったですねえ。あの歌は、原作ではちょっと感動モノだと思うのですが。


 ◇あの若さで人生を捨ててしまったフロド。  


 ラストの灰色港の場面は、短すぎる全体にくらべて、ぐっとていねいに美し

く仕上がっていて、よかったと思います。それにしても、気の毒な青年フロド。

原作では旅の前にも後にも、もっと平和な日々を楽しめたのに、映画ではまだ

少年のような初々しさを残したまま、悲惨にも人生を指輪とともになげうって

しまい、自己犠牲のカタマリとなって西方へ去ってしまいました。満ち足りて

生をまっとうして去っていく老いたビルボとくらべて、なんと痛ましい姿でし

ょうか! 映画のフロドは、他の三人のホビットと同年配に描かれているので、

本来なら一人前になる試練を戦い抜き、立派に成長し「自己実現」を果たすべ

き年齢なのに、その権利をもぎとられて、それを嘆きもせずボサツさまのよう

に達観したほほえみとともに、はかりしれない年寄りたち(エルフの重鎮やガ

ンダルフ、ビルボ)に混じって行ってしまうとは、ちょっとげせませんでした。

かわいそうな、イライジャ・フロドの大きな瞳……


 ▽まとめ


(1)よいと思った所

  スメアゴルの過去が描かれたこと、死者たちの軍勢のブキミさ、ミナス・

 ティリスの城町のすばらしさ、ミナス・ティリスの一般市民たちや出陣する

 兵士たちの表情が描き込まれていたこと。小道具では、破城槌グロンドに感

 動!(レプリカがあれば欲しい) ペレンノールに到着したセオデンたち、

 滅びの亀裂のふちで豹変するフロドの鬼気せまる表情(弱々しくて前回まで

 心配していましたが、すごかった)。

(2)気に入らなかった所 &(3)原作との違いが気になった所

 オリファントにひょいひょい登ってしまうレゴラス。

 アルウェンが死にかけている、などという設定。エルロンドがアンドゥリル

   の剣を自分で歩いて届けに来てしまうところ(最初、アルウェンが来た

   のかと思いました)。

 サルマンの勇姿と美声が欲しかった。しかし、DVDでは見られるそうなの

   で、期待。

(4)原作へのこだわりを感じた所

  ラストでサムが帰宅する場面、玄関先にヒマワリやナスターチウムが咲い

 ていたところ。原作「旅の仲間」第一章に、袋小路屋敷の花々の描写として、

 金魚草にひまわり、のうせんはれん(ナスターチウム)が出てきます。


 ○おまけ


 最後まで期待を裏切らず、たいへんよい映画でした。でも、思います。映画

は原作を超えられなかった。クライマックスであるがゆえに、よけい、原作の、

長いけれども事細かな、卓越した描写と詩句によって盛り上げられる緊張感と

達成感、しめくくりの完成度は、あれだけ手のこんだ、すばらしい映画でも、

しのぐことはできなかったと思います。

 以上、原作を溺愛するHannaの結論でした。
 

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