1.旅立ちの前夜
9月15日、大安。午後3時半に披露宴はとどこおりなく終わ った。2次会をしないことにしていた華氏は、ごろごろしてなか なか帰ろうとしない会社の同僚たちに、大阪市北区のD島ホテル のロビーで相手をしていた。4時半ごろになって、ようやく全員 しぶしぶと引き揚げ、家族も帰って、華氏は新妻と2人きりにな った。「ふーっ」。その日の宿泊にあてられた部屋で、華氏と妻 はそれぞれのベッドにあおむけにねころんで、大きなため息をつ いた。 「やれやれやなァ」「そやねえ」。式の準備などで疲れていた 2人ではあったが、このまま寝入ってしまうわけにはいかない。 今晩は長い夜となりそうな気配である。それというのも、翌日の 飛行機の便の関係で、朝5時半にチェックアウトして、記念とな るホテルを去らなければいけないからだ。中途半端に寝ると、翌 |
朝起きるのがつらい。かと言って、寝ないと疲れをひきずったま ま旅行に突入してしまうようで、なんとも不安だ。結局、2人の 出した結論は、軽くお酒を飲んで寝てしまおう、というものだっ た。 「ほな、お寿司でも食べに行こや」。祝日でほとんどの店が閉 まっている新地をしりめに、曽根崎まで歩いてGずしに入った。 披露宴であまり料理を食べていなかった新婦は、ウニやらイクラ やらを注文して食べた。華氏はマグロ、ウナギ、タマゴあたりが 好物である。ビールを飲んで満腹になって、店を出たのが午後8 時すぎ。「あれ、ぽつぽつ降ってきたんとちゃうか?」……ホテ ルまでは無事たどりついたものの、この雨がどうなったかは、2 人は翌朝まで知るよしもない。起床予定の朝5時にむけて、カウ ントダウンがはじまった。 → 2「飛行機に搭乗する」へ |