28.目もくらむダン・エンガス
大西洋に面したダン・エンガス(Dun Aonghus) は、モハー の断崖と同じく、海からいきなり100メートルほど切り立って いる。航空写真の絵葉書で見るとよく分かるが、この断崖のいち ばん端の点を中心に、環状に3重の石垣が巡らされている。ドゥ ーン(Dun)というのは、要塞・とりで、とかいった意味だそう だ。ゆるやかな上り坂をかぽかぽ走っていたポニーは、平坦な道 ではカポックカポックと調子を上げ、下り坂では逆に、特に慎重 に歩を進めた。キルロナンの港から30分ぐらいで、華氏らはダ ン・エンガスまで徒歩10分、という、舗装道路の終点に到着し た。 「わしはここで待ってるから。ダン・エンガスは、すぐそこだ よ」。ジョリーさんに促されて馬車を降り、妻はおじさんとポニ ーといっしょに写真に納まった。断崖の突端までは、石ころゴロ ゴロの道。とても歩きづらい。何回も石垣の切れ目を通って、よ うやく平らな所へ出た。岩の上だが、陸地はもう、ほんのそこま でだ。「ほォー……」。見はるかすかぎり、どこまでも大西洋。 ついに“地球の西の果て”まで来た! 真下は海。華氏は勇気を |
ふりしぼって、岩に腹ばいになった。眼鏡をきちんとかけ直す。 カメラ(ニコン)を首にかけ、しっかりと持った。体をひょい、 と乗り出すと……おおおお、こわっ! モハーより海が近い分、 波の音がリアルだ。シャッターを1回押すのがやっとだった。妻 はもちろん、そんなことはせず、大口をあけた華氏を写真に撮っ た。 石の道を元の所へ戻ると、レストランがあった。サンドイッチ を食べ、1時前にポニーを降りた所へ行くと、馬車のおじさんた ちが大勢、談笑しながらわれわれ観光客を待っていた。そして出 発。途中、妻が十字のついた縦長の石の箱?(墓?)や、屋根の 崩れ落ちた古い教会跡の写真を撮ろうとしたときに、減速しても らった。ジョリーさんは「どこから来たんだ?」「何日ぐらい居 るんだ?」「ギネスは飲んだか?」など訊いてくれたが、華氏ら の返事を聞くだけで、特にコメントはしてくれなかった。1時半 に港に着き、馬車を降りると、£25(3750円)請求された。 旅行書には£15ぐらいと書いてあったのだが、あえて反論はせず に£25支払った(フェリーと宿と朝食とで£24なのだが……)。 これでまたジョリーさんは、2時に島に着く船に間にあうのだ。 → 29「パブを楽しみに」へ |