11.ホテルに荷物を置いて

 ダブリン空港に降りたって、500ポンドを英£からアイルラ
ンド£に替えた華氏らは、若干端数が出たため、自動的にスモー
ルチェンジもすませ、バス乗り場からダブリン市内へ向かった。
空港バス(エアリンク)は、アイルランド北東部から南東部へ行
く鉄道のターミナル、コノリー駅に近いバス・ステーションと、
同国西部へ行く鉄道の起点、ヒューストン駅とに停まる。繁華街
のテンプルバー・ホテルに宿をとった華氏らは、ホテルにより近
いバス・ステーションで降り、500メートルほど荷物を転がす
ことにした。妻は最初難色を示していたが、タクシーに乗るほど
の距離でもないのと、ほかに手段がないのとで、しぶしぶ華氏の
意見に従った。市内は、傘はいらない程度の細かい雨が降ってい
た。
 緑の円屋根がきれいな税関(カスタムハウス)をぐるっと回っ
て、リフィー川に出る。ダブリンの中心部を西から東へ流れてい
て、川幅は100メートルぐらい。川沿いの歩道はそんなに広く
ない。「あれがオコーネル橋やろか。……このへんがアビー座か
な?」。いかにもイヤそうにバッグを転がす妻に向かって、華氏
がいろいろと機嫌をとる。アイルランド独立・建国の父といわれ
るダニエル・オコーネルの像が立つ目抜き通り、オコーネル通り
の南端にあるオコーネル橋を渡り、1筋目を西へ曲がると、まる
で路地のようなテンプルバー通り。少し行き過ぎたあと、気がつ
いて戻り、小さく「HOTEL」と書かれた看板を見つけた2人
は、玄関を入ってチェックイン、ようやく重い荷物から解放され
た。
 まだ昼の2時すぎ。市内散策をしようと思ったが、妻のお目当
ての国立博物館は、日曜日は休みらしい。「トリニティー・カレ
ッジは開いてるはずやわ」。歩いて2分ほどの距離を地図で確か
め、折り畳みの傘を1本持って、ホテルを出た。アイルランドは
車は日本と同じ左側通行。横断歩道の歩行者用の信号は、黄色が
なく、緑から、5秒間ほど何も点かない状態があって、ようやく
赤に変わる。実にのんびりしたものだ。華氏は、何の前ぶれもな
しにいきなり緑から赤に変わり、あわてさせられたパリの信号を
思い出した。「ゆっくり変わる信号やな」「せやけど、みんな無
視して渡ったはるで……」。見れば、交通量の多い交差点を除け
ば、全部押しボタン信号なのだが、地元の人?は無視してスイス
イ渡っている。「『郷に入っては郷に従え』か」。華氏らはその
流儀に従うことにした。歩いて2分のはずのトリニティー・カレ
ッジだが、塀に囲まれて入り口が見当たらず、結局10分ほどか
かってほとんど1周するはめになり、ようやく門が見つかった。

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