18.ニューグレンジで陽が射した
妻は今回、多くのケルトの遺跡を見るのを楽しみにしていた。 華氏らの車はソーズのロータリーでN1を一旦降り、地図に<円 塔マーク>がある西側へと出た。まもなく、道沿いに教会と塔が 見えた。「あった、あった」と妻は喜んで、車から降り、塔を写 真に収めた。次なるはラスクの町。ここはN1から割と離れたと ころだったが、平坦で高い建物のないアイルランドの田舎にあっ て、石造りの円塔は、遠くからでもすぐに分かる。写真を撮った 華氏らは、曇り空にせかされるように、気ぜわしくN1に復帰し た。 ボイン川河口の町・ドロヘダにさしかかる。ここから上流のボ イン渓谷一帯は、さながら川中島のように、幾度も民族間の戦闘 が繰り広げられた古戦場であり、また、ニューグレンジ古墳に代 表されるような、紀元前2、3千年ごろからの石造りの遺跡が残 る、神話と伝説の地である。まず、高さ5メートルものハイ・ク ロスで有名なモナスターボイス(Monasterboice)を目指す。少 し道に迷いながらも、ようやく到着した。土砂降りの雨。傘をさ して、教会跡や墓地などに囲まれた中にあるケルト十字を見る。 苔むした石にはいろんな幾何学的模様が刻み込まれており、妻は |
興味深げに写真を何枚も撮っていた。華氏らのほかにも、学校の 遠足だろうか、生徒らしき子ども30人ほども、バスで訪れてい た。 古い修道院跡のメリフォント寺院にも寄り、ドウス古墳を尻目 にニューグレンジ(Newgrange)へ。ここは観光地らしく、駐車 場のほかレストランや観光牧場も整備されている。ここで、一気 に太陽がまぶしくなった。「何や〜、さっきあんなに降ってたの にい〜! こんなにすぐ晴れるんやったら、モナスターボイスで もうちょっと粘ったらよかった〜。もっとええ写真撮れたのにい 〜!」。不満げな妻の言葉にも、華氏は耳を貸さない。かなりあ せってモナスターボイスを離れたのは確かだ。しかし、それとい うのも、この日は強行軍で、観光地巡りをしながら250キロ以 上走らなければならなかったからだ。今日の宿泊地・スライゴー には4時ごろに着こうと思っていたが、ニューグレンジに着いた のはすでに午後1時。これから食事をして、古墳を見学し、少し 逆戻りするような形で<タラの丘>にも寄って、さらに一般道を 180キロほど走るとすると……。いや、考えるのはやめよう。 どうにもこうにも行かないときは、とりあえずメシにするのが一 番だ。温かいスープを飲めば、妻の機嫌も直るに違いない。 → 19「ニューグレンジに陽が射した」へ |