38.ロンドンで味わうギネス
ロンドンのヒースロー空港に着いたのが5時だったから、市内 ストランド通りにある「ストランド・パレス・ホテル」には6時 までには着けそうにない。「電話しといたほうが、ええんちゃう か〜?」と言った妻は、自分で自分の仕事を作った。その間に、 国内線用のベルトコンベアーから、華氏らの荷物が流れてきた。 アイルランドは“国内”扱いである。ヒースロー空港の下は、地 下鉄ピカデリー線(青色)の駅。1人£3でコベントガーデン駅 まで1時間弱乗って、日曜日の夕暮れ、人がわやわやといるコベ ントガーデンを横切り、テムズ川の1本手前の通り・ストランド 通りに出ると、ホテルはすぐに見つかった。チェックインした華 氏らは、寸暇を惜しむようにカメラを提げて外に出た。もう薄暗 い。 横断歩道を渡って1ブロック歩くと、テムズ川に出た。午後7 時前。夕闇にビッグベンが光っている。華氏はウオータールー橋 の欄干にカメラを置き、4〜8秒の露光で夜景を撮った。そして テムズ左岸(北側)を、ビッグベンのあるウエストミンスター橋 まで歩く。途中、<クレオパトラのオベリスク>が黒々とそびえ 立っている。道路の向こう側では、若い元気の良さそうなニイち |
ゃんが数人、何やらわめきながらヨタっている。近寄らないほう が賢明だ……。ウエストミンスター橋のたもとまで行った。まば ゆいばかりのビッグベン。おととし、妻が母親と2人でロンドン を旅行したときに行きそびれた分を、この華氏との旅行で補完し た。 川沿いを国鉄のチャリングクロス駅まで戻り、細い道をたどっ てストランド通り近くまで行った。途中の薄暗い路地で、若い女 性が1人、「スモールチェンジ、プリーズ」と言って、華氏らに 近づいてきた。妻は「アイハブ、ノー・コインズ」と言ってやり 過ごした。本当に小銭に両替してほしくて困っていた人だったの か、単に小銭を乞うたのか、もっと悪い人だったのかは、今とな ってはわからない。華氏らはストランド通りの手前のパブに入っ た。すると、ここには、華氏が一度食べたいと思っていた、本場 の<フィッシュ&チップス>があった! もっとも、さんざんい ろいろな魚を食べてきた華氏は、いささか物足りなさを感じたけ れど。「“海を渡ったギネス”って、苦い?」。長旅の疲れか、 今日はビールを遠慮した妻が華氏に訊いた。「……そうでもない と思うけどなあ」。たいした感慨もなさそうに、華氏が答えた。 → 39「予感に満ちた夜明け」へ |