36.ダブリンに帰る
午後5時になった。まだまだ充分に明るいのだが、華氏らはも う待ち切れない。アスローン城からアスローン橋を東へ渡り、チ ャーチ通り(ここが唯一といっていいほどの繁華街)にある軽食 店で夕食を済ませた。華氏はホームメード・バーガー(ハンバー グ)、妻は小さくてまるいミートパイ。もちろん、大量のチップ スは当然だった。店内には学生らしい若者もいて、ジュースなど を飲んでいた。そして、同じ通りにある「コンロン・バー」へ。 妻の旅行書に載っているのと、実際の店の雰囲気を見て決めた。 店内は薄暗いが、広く、音楽がかかっており(「U2」というグ ループの音楽だったそうだが、華氏にはわからない)、窓べりか らはシャノンの流れが見渡せる。やはり時間が早いからか、若い 客が多い。華氏は1パイント、妻は半パイントのギネスを注文し た。 ゆっくり時間をかけて1杯のビールを飲むうちに、日が暮れて きた。昼間乗ったタクシーを降りるときに、電話番号を書いたカ ード(名刺)を渡されたのだが、じつはアスローン・タクシーの 事務所もチャーチ通りの建物の2階にある。華氏は呼び鈴を押し て、「えくすきゅーずみー。たくしー、ぷりーず」と話した。間 もなく来たタクシーで、華氏らは「ザ・ミル」へ帰った。£5渡 して降りようとすると、運転手は「おい、メーターは£4だぞ」 と言って£1のおつりをくれた。この国ではタクシーにはチップ |
は要らないのだ。それでもまだ、寝るのには早かったので、その B&Bのパブでホットウイスキー(もちろんアイリッシュ)を1 杯やった。妻は、店のニイちゃんが若くてカッコよかったのと、 温かい飲みものを飲んで体が暖まったこととで、非常に喜んでい た。なぜか2人とも着替えが1日分足りなかったので、風呂場で 下着を洗濯してから、後にも先にも1回きりのダブルベッドで寝 た。 10時間以上、たっぷり寝て目がさめた。8時半に朝食をとり ながら、B&Bの女主人に「10時の汽車に乗りたいので、タク シーを頼む」と言って、タクシーを呼んでもらった。“枕代”を 置いて、9時半にチェックアウト。アスローン駅で1人£12の切 符を買い(休日は、往復切符しか売っていないのだ!)、10時 の列車でダブリンへ向かった。車窓には細かい雨が吹きつける。 ただ、<西部>を抜け出したためか、緑色の景色が多くなった。 ウイスキーの名前にもあるタラモアを過ぎ、ポーターリングトン からは、同国南西部からダブリンへ向かう線路と一緒になり、複 線になった。結局、今回の旅行では、妻が見るのを楽しみにして いた国立博物館のタラ・ブローチや、ギネスビール工場見学など のダブリン市内の観光は、この天候と重い荷物ではお預けにせざ るをえないだろう……。11時50分、列車はやはり時雨模様の ダブリンの西のターミナル、ヒューストン駅にすべり込んだ。 → 37「シャムロックの国を発つ」へ |