39.予感に満ちた夜明け

 パブを出た華氏らは、ストランド通りに面した、イラン人?が
経営するコンビニのような店でミネラルウオーターやオレンジジ
ュースを買い、9時ごろにホテルに戻った。翌朝は5時半起き。
そして、まだ暗い6時にチェックアウト。上り坂を荷物をごろご
ろ転がして、人けのない不気味なコベントガーデンを過ぎ、やは
り1人£3の地下鉄の切符を買って、まもなく来た地下鉄でヒー
スロー空港へと向かった。ロンドン市内滞在は半日もなかった。
というより、市内を散策したのは、ほんの2時間ばかりに終わっ
た。日本出発前にロンドンの宿を予約してあったので仕方のない
ことなのだが、ウエールズ地方の旅行をとりやめて、全部の日程
をアイルランドに回したためのツケが来た格好だ。これなら、ダ
ブリンから直接パリに飛んで、日本に帰れたようなものだが、初
めて外国旅行をする華氏には、日本を発つ前に、大都会・ロンド
ンでの宿を予約せずに旅立つ、というところまでの勇気はなかっ
た。
 7時すぎに空港に着き、8時半のエールフランスでパリに飛ん
だ。搭乗前に荷物を預けるときに量ってもらったら、華氏のスー
ツケースは、なんと30キロ、妻のスキーバッグは11キロあっ
た。パリに着いたときに、行き(18日)にはアイルランド・イ
ギリスと1時間あった時差が、なかった。……不可解だが、この
26日の時点では、フランスではサマータイムが解消され、イギ
リスでは継続中、と考えるほかはない。ともあれ、パリのシャル
ル・ド・ゴール空港で、乗り継ぎの待ち時間にお茶を飲んだり最
後の買い物をしたり、空港に止まっていた超音速旅客機・コンコ
ルドの写真を撮ったりし、定刻より30分遅れて昼の12時45
分に、華氏らを乗せたエールフランス機は日本へ向けて飛び立っ
た。
 機内食は、やはり2回出た。その合間に、のどが乾いた華氏は
たびたび、スチュワーデスさんに水をもらったり、自分で水を飲
みに立ったりした。「しるぶぷれー! しるぶぷれー! じゅぶ
ーどれ、ぼわーるどろォ!」(水がほしいんですが)と、小声で
叫んだあとで、日本人のスチュワーデスさんに「お水ですか?」
と声をかけてもらうのは、なんだかキマリが悪いものだが、華氏
にはそんなことはどうでもよかった。用が足せれば、フランス語
だって何語だってかまわない。座席で映画を見て、見飽きて、退
屈して、少し窓のシャッターを開けると、シベリア上空がまさに
明けんとするところだった。鮮やかに紺から紫〜赤〜黄色へと変
化する空……まるい空。旅行が終わってしまうものがなしさと、
日本到着後の新しい生活への期待を予感させる夜明けだった。

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