14.スープのとりこになる
レンタカー屋さんに入った華氏は「ぐもねん?」と言って受付 のおばさんに予約書を示した。マニュアル車でいいか?と訊かれ たので「おけい」と答えると、なんとホンダの2000CCを貸 してもらえた。クレジットカードで先に精算をしておいて(この とき、後にも先にも1回だけ、華氏のカードを使った。ここ以外 は全て妻のカードで精算した)、表に出ると、紺色の車が止まっ ていた。盗難防止用か、キーについているポッチリのようなもの でキー差し込み口の横を押さえ、「ピー」と鳴ってランプが赤か ら緑に変わらなければ始動できない。乗り込むときにモタモタし ていると「ピ〜〜〜〜」と警告を発し始めるこの装置には、この あと3日間、非常に悩まされた。ま、とにかく、無事に車が借り られた。最初の目的地、パワーズコートを目指して、レッツラゴ ン! アイルランドの東端にあるダブリンからは、反時計回りに11 本の放射状幹線道路が伸びている。これ以外に各都市を結ぶ幹線 もあり、それぞれN1〜N25の番号がついている。華氏らはこ のうち、島の東側のアイリッシュ海に沿って南下するN11をた どり、ブレイという町で分岐して、エニスケリーにあるパワーズ |
コートへと向かった。道路は日本と同じく左側通行なので、車も 右ハンドル。市街地を出るまでは渋滞や信号でモタモタしたが、 郊外に出てからは、ギアを5速にも入れて快調に飛ばし、ダブリ ンから10マイル強(16キロ強)の距離を走って、昼前に着い た。 パワーズコート(Powerscourt)は、古くからある広さ400 万坪の庭園で、トリトンの湖、日本庭園、タワー渓谷などのコー ナーに分かれている。湖へ向かって下りていく幅の広い石段と、 その両側に対称的に立つ金のペガサスが見事だ。1時間ほど、ひ と通り散策してから、喫茶コーナーで昼食にした。サンドイッチ やスコーンや『本日のスープ』などで計£6(900円)。ここ で飲んだ野菜スープが温かくって美味しかったため、これから1 週間、毎日ほど各地で『スープ』を飲むことになった。パワーズ コートを出て、次の目的地は、少し南にあるグレンダロッホ。途 中で見たウィックロウ山地の山並みは、「最も美しいアイルラン ドらしい風景」と言われているらしい。田舎道ではほとんど対向 車に出会わないが、相変わらず時雨もようで、時折ワイパーのお 世話になるぐらいに降ってくる。“忠実な運転手”は、道に迷う ことなく、まもなく双子湖のあるグレンダロッホに到着した。 → 15「若葉マークの運転者」へ |