12.残念! パブに行けず

 トリニティー・カレッジでの妻のお目当ては、一般開放されて
いる図書館(有料)に展示されている「ケルズの書」だった。こ
れは、聖書の福音書の写本なのだが、ただ書き写すだけでなく、
余白にいろいろな模様を入れたり、飾り文字を使ったりしている
ところが独特らしい。ガラスケースごしだったが、覗き込んだ妻
は、「へえー、これが本物かぁ……」と、いたく感心した様子だ
った。図書館の売店でいろいろなお土産をみつけ、「あれも欲し
い! これも欲しい!」と妻は大はしゃぎ。「ケルズの書」の絵
はがきやら、しおりやら、いろいろと買いこんでいた。それに、
華氏の会社の人たち60数人からお祝いをもらっているので、せ
めてお土産でも買って帰らなければと、とりあえず4枚組みのコ
ースターを10個買った。華氏も、何か買わねばと思い、アイリ
ッシュ・クックブック(料理の本)を£3.99(600円)で買っ
た。
 さて、帰ろうと思うと、外はザザ降りの雨。傘は、華氏の折り
畳み1本しかないので、ほとんど華氏が濡れながら、相合い傘で
ホテルまで戻った。部屋でひと息ついてから、パリへ向かう飛行
機の中で宛て名を書いた「<Married on 15 Sep.>はがき」を
投函しに、オコーネル通りの中央郵便局へ行くことにした。日曜
日も5時まで窓口は開いており、ここで38ペンスの切手を70
枚ほど買い、いちいち舐めて貼って、局舎の中の木製のポストに
入れた。その間、妻は郵便局のあちこちで写真を撮りまくってい
た。
 郵便局を出て、少し北側のマクドナルドへ、コーヒーを飲みに
入った。マックで始まる名前だから、創業者は元々はアイルラン
ド系に違いない。コーヒーが57ペンス(85円)。華氏は、肉
が普通のハンバーガーの2倍半あるという「クオーター・パウン
ダー・セット」にした(£2.85=430円)。日曜日とあって、
店内には子どもを連れた若夫婦の姿が多く、店員が子どもに風船
を配って歩いていた。店を出てから、土産物店などをひやかして
ホテルに帰り、旅行書を見て、リフィー川沿いの庶民的なレスト
ラン「リバーサイド」で夕食をとることに決めた。2人がそれぞ
れ1杯ずつのギネスビールとグラスワイン、それにフルコースで
計£23(3450円)。量の多さに圧倒され、しかも最後に出て
きたリンゴのスフレがとても甘く、結局、ぜひ行きたいと思って
いたアイリッシュ・パブに行けるほどの胃袋が残っていなかった
ため、アイルランド初日はパブをパスすることにし、やみかけた
雨が静かに降る中、2人はおとなしくホテルに帰った。

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