29.パブを楽しみに
キルロナンに戻った華氏らは、坂道を少し登り、島で唯一では ないかと思われるスーパーマーケットに行った。地元の人も観光 客も来ている。そこで缶入りギネスとリンゴ(こちらのリンゴは すべて緑色で、赤いリンゴなんて無い)を買って、海辺へ出た。 アラン諸島の地図には、遺跡などのほかに「サンディー・ビーチ (砂浜)」という表示がところどころにある。つまり、それ以外 は砂浜ではないのだ。華氏らの宿から少し下ったところは、その 砂浜のうちの1つで、2人は浜辺に腰を下ろし、ギネスを飲んだ り、リンゴをかじったりした。生あたたかかったが、甘いリンゴ だった。そのあとで、波打ち際の海藻を少しかじり(きれいな緑 色をしていたから)、大西洋も“舐めた”。貝殻もいくつか拾っ た。 しばらく遊んでから、とりあえず宿に帰った。アラン諸島に限 らず、この国では至るところに<B&B>と呼ばれる民宿のよう なものがある。ベッド&ブレックファースト(1泊朝食付き)の 略で、日本の民宿と違うのは、夕食がついていないこと。この国 では、晩は宿から出てパブに行くものと決まっているのだ。“正 式に”チェックインしたと思ってもらったのか、B&Bの女主人 |
にかぎをもらった。部屋用と玄関用の2本がセットになったやつ だ。華氏らは「ゆっくり遊んでらっしゃい」と催促されたものと 思い込み、2キロほど南東にある円塔まで、ぶらぶら歩くことに した。8時ごろに日が暮れるのだとしたら、時間はたっぷりとあ る。 港に沿ってぐるっと回り込む道は、一本道だ。道の真ん中には あちこちに馬の落とし物があって、ほとんどウグイス色にへしゃ げている。よく晴れていたので、港の写真を撮ったりしながら歩 いていくと、円塔は簡単に見つかった。直径3メートルぐらい。 ただし、大人の背丈程度の高さで、上部はなくなっている(元は 13メートルぐらいあったと推定されている)。渦巻き模様を彫 った碑もあった。しばらく、ぼんやりしてから戻る。途中、5時 ごろになって小腹がすいてきた。「てI5h FIてZ」という 看板が目に入る。「Tigh Fitz(タイ フィッツ)」という名の レストラン(兼パブ)らしい。中に入り、「食べ物は?」と訊く と、ハムサンドならできる、というので、2人で食べた。特に変 わりはない、普通のハムサンドだった。歩き疲れて宿に戻った華 氏らは、夕食と、その後のパブに備えて、体力を蓄えた(ちょっ と休憩した)。アラン諸島のパブで飲む酒は、どんな味だろう。 → 30「遥けくも来つるものかな」へ |