25.水と車とゴルウェー空港
空港から閉め出された華氏らは、車の中で茫然としていた。こ の車を返さなくては、明日以降どうしようもない……明日のアラ ン島行きがフイになるか?……無断延長して、アラン島から帰っ てきてから車を返そうか……。いろいろな考えが頭の中を駆け巡 り、2人でどうしようか相談した。そのとき……。妻が空港の建 物の中から外に出ようとする人を発見した。「あ。人がいる!」 「ちょっと、訊いてきて!」。華氏が言うやいなや、妻は車から 走り出した。身ぶり手ぶりを交えて話をしていた妻が戻ってきて 言うことには、◇空港は5時で閉まった。現在、客は1人もいな いし、ハーツ・レンタカーの係員もいない◇あなたたちの持って いるレンタカーのチケットは、「21日の12時まで」となって いるが、これは多分昼の12時を指すのだと思う◇次は午後10 時に空港が“開く”。そのときにはハーツの係員も来るから、そ のころに電話をしてみればいいのではないか……ということだっ た。 華氏はまた車を運転して、いったんホテルに帰った。フロント で、次に空港から離着陸する便はいつか、空港はいつ開くか、空 港へ(ハーツのオフィスへ)はどうやって連絡をとったらいいか ……ということを(妻が)訊いた。フロントの女性は「9時半ご ろに電話をしろ」と言った。そこで、華氏らは市内に食事をしに 出かけた。エール・スクエア近くの[i]前にまた車を停め、ス |
クエアに面した「チェスナット」に入った。晩方遅くになっても 車を運転しなければいけないかわいそうな華氏は、料理とともに ミネラルウオーターを注文した。そこで出てきたのは同国南部・ バリゴーワンの瓶詰めの水で、華氏がこがれていた無発泡性のミ ネラルウオーターだった。料理も無論、美味しかったが、この日 の食事代£25.5は、全然高くなかった。帰りがけに妻がコートを 忘れて取りに戻った、というハプニングもあったが、ご愛嬌だっ た。 ホテルに戻り、妻が部屋から(英語で)電話をかけた。数回か けて、ようやく空港の人とつながったが、「空港はいま開いてい るから、ここへ来て、ハーツ・レンタカーの事務所へ行け」とい うことだった。今度こそ最後のドライブか。華氏は、もうすっか り覚えてしまった空港への10キロを急いだ。空港の建物に入る と、ハーツのボックスはあった。……あったのだが、「無人の場 合は、ここへキーを落としておけ」と書いた箱があるだけ……。 なんや! これだけのために、きょうは夕方からずっと走り回っ てきたのか! あのとき、キーを返して帰れば、それで済んだこ とやないか! ……妻が空港内のパブで、タクシーはどこで乗れ るかと訊いた。「外にある」と言われて、ドアから外に出てみる と、おじさんが1人、にこにこしながら「タクシーかい?」と言 って近寄ってきた。華氏らはこれでホテルに帰るしかなかった。 → 26「アラン諸島へ向けて出発」へ |