35.待ち遠しい夕暮れ
重い荷物を転がしてアスローン駅の表に出た華氏らを待ち受け ていたのは、やはり決まり文句を言うおじさんだった。「タクシ ーかい?」。華氏らは、屋根に<TAXI>という文字とともに フリーフォン(料金無料の電話)の番号を書いた看板をつけた車 に乗り込み、「チューアム・ロードの『ザ・ミル』というB&B まで」と言った。運転手はうなずき、市街地とは反対と思われる 方向へ向かって走り出した。(おいおい、大丈夫か?)。車はさ らに国道のバイパスのような自動車専用道に入る。(え……)。 しかし、しばらく走ると、「チューアムはこちら」という標識が 見えた。まずはひと安心。目指す「ザ・ミル」はL4沿いにあっ た。 B&Bの主人にゴルウェーの[i]でもらった予約書を渡して チェックイン。ダブルベッドの部屋に案内される。荷物を置かせ てもらい、乗ってきたタクシーで町の中心部にとんぼ返りした。 往復で4マイル=£8。アイルランドのど真ん中に位置するアス ローンは、同国最大の川・シャノン川のほとりにあり、川釣りの 基地としてにぎわう。また、古戦場として、数々のせめぎあいが |
行われた血なまぐさい歴史を引きずった町でもある。市街地とい えるのは、せいぜい駅から南の800メートル四方ぐらい。ここ に城跡やらホテルやらパブやらがある。華氏らが泊まる 3.2キロ 離れたB&Bは、もう“郊外”といってもいいぐらいの距離なの だ。 アスローン城を見学する。この町では、城跡をインフォメーシ ョン・オフィスとして活用しているが、ちょうど昼休みで開いて いなかった。あと1泊なのだが、お金に多少の不安を覚えた華氏 らは、市街地の高級ホテル「プリンス・オブ・ウエールズ」で、 最後の両替となる£50(7500円)を換えた。街の中は寒い。 資料館にもなっている城跡のほかは、とくに見るところはなさそ うだ。ファーストフードの店でカレーチップスをつまみ(フライ ドポテトに、なんとカレーがかけてある!)、シャノン川の川べ りで白鳥を眺めたりして、本屋にも立ち寄り、特に目的もなかっ たのだが[i]にも寄って、夕方になるのを待った。アイルラン ドでの最後の晩。心残りのないように、きちんとパブには行って おきたい。翌日はロンドンでの泊まりになるが、なにしろ<アイ リッシュ海を渡ると、ギネスは苦くなる>、と言うから……。 → 36「ダブリンに帰る」へ |