33.温かい飲み物で疲れをいやす
ホテルに戻った華氏らは、どこで夕食にするかということで、 旅行書を見て入念に作戦を立てた。もっとも、持参した2冊の本 は、どちらもいいかげんで、ゴルウェー市内の地図、ホテル、名 所の位置などがでたらめだ。だから、参考程度にしよう、という ことで、いちおう「セラー」というレストランを目指した。ウイ リアム・オブライエン橋を渡って街の中心部の方へ行き、聖ニコ ラス教会、リンチ城のわきを歩いていると、もっと遠くにあるは ずの「セラー」が、いきなり見つかった。やっぱり旅行書はウソ を書いていたのだ。しかし、結局、華氏らはその店には入らなか った。店頭のコース・メニューを見ておそれをなしたのだ。やは り、あとでパブに行って飲めるだけの胃袋は、残しておかなけれ ば。 すぐ隣に、魚の絵をたくさん書いた大衆食堂のような店があっ た。華氏は(ひょっとしてフィッシュ&チップスがあるかな?) と期待したが、メニューにはサケとかマスとかヒラメとかの名前 が並び、「フィッシュ」という名前のメニューはなかった。華氏 はこのことをとても気に入り、妻の同意を得た上で、ここで夕食 |
をとることにした。店内には、日本のすし屋よろしく、いろんな 魚介類の絵と名前を並べたポスターが貼ってある。温かいスープ を注文する。ヒラメのフライも美味しかった。しかし、当然のよ うに付いてきた大量のフライドポテトには、今回もまた、閉口し た。 満腹になってしまった華氏らは、またすごすごとホテルに戻っ た。肌寒くなってきたのと、ホテルの1階にも静かそうなパブが あったのをチェックしていたからだ。部屋で休憩したあと、パブ に降り、「温かいものがほしいな」と言う妻に従って、アイリッ シュ・コーヒーを飲んだ。アイリッシュ・ウイスキーをたっぷり 混ぜた熱いコーヒーの上に、泡立てた生クリームを乗せた飲み物 は、一挙にその日の疲れをいやしてくれた。最初にダブリンで泊 まったテンプルバー・ホテルで、チェックアウトするとき「また 土曜日に来たら泊まれるか」と訊いたのに対し、「あいにく満室 で……」と断られなければ、泊まるはずではなかったこの日のゴ ルウェー。しかし、ほぼ半日かけて市内を見て回り、比較的のん びりと過ごすことができた。およそ新婚旅行らしくない“出たと こ勝負”の展開は、旅の楽しさを教えてくれたかのようだった。 → 34「パブの支払いはタダ?」へ |