37.シャムロックの国を発つ
ダブリンの東の駅・コノリーから、西の駅・ヒューストンまで は、3キロぐらい離れている。ヒューストンはまるで<上野駅> のような感じで、小雨が降っているため薄暗い構内に、茶色とオ レンジ色に塗り分けたディーゼル機関車がたくさん停まり、出発 を待っていた。また、駅構内から、ダブリン空港行きのシャトル バス<エア・リンク>が発着しているので、華氏らはひと安心し た。雨の中を荷物を転がすことはない。構内の、バス・ターミナ ルと反対側にはレストランがあり、華氏らはそこで最後のスープ を飲んだ。そして、バスに乗り込んで空港へ。途中、リフィー川 沿いを走ると、向こう岸にギネスビールの工場が見える。悔しか ったが、バスの中から写真を1枚だけ撮った。緑の円屋根の税関 わきのバス・ステーションで一旦止まって乗客を乗せ、一路空港 へ。 ロンドン便に乗る手続きを済ませたあとは、充分に時間があっ たので、お土産のアイリッシュ・ウイスキーを買ったり、空港内 のパブで(この国で)最後のギネスを飲んだりした。華氏はバリ ゴーワンの水も飲んだ。牡鹿が描かれたプント硬貨(=£1。ア |
イルランド・ポンドのことを「プント」ということもある)を始 め、7種類の硬貨をすべて記念にそろえたあとは、残ったお金で 買い物をし、エア・リンガス(アイルランド航空)172便に乗 り込んだ。3時40分、ついに華氏らを乗せた飛行機はアイルラ ンドを離陸。7泊8日お世話になった石と緑の大地に別れを告げ た。 レンタカーを借りた3日間は駆け足で各地を巡り、足を奪われ てからは逆にのんびりと(宿がとれない、というアクシデントも あったが)地方都市を見て回った。都会の雑踏の中を、名所巡り するような旅行でなくて、のんびり・ゆったり過ごそう、と話し 合っていた2人には、合格点の旅行だった。ただし、妻にしてみ れば、行き残した所も数多く、後ろ髪を引かれる思いでの離陸だ ったに違いない。飛行機は、ところどころ雲が途切れたアイリッ シュ海の上空を飛び、午後5時すぎ、やはり小雨にけぶるロンド ン・ヒースロー空港に着陸した。上手なパイロットだった。空港 で、華氏らが乗ったのと同じ、尾翼に緑のシャムロック・マーク (三つ葉)をつけたエア・リンガス機を撮った。華氏は、これを 見納めにしたくないと思った。折あらば、再びかの地を踏まん。 → 38「ロンドンで味わうギネス」へ |