26.アラン諸島へ向けて出発
アイルランドでは、メーターの付いたタクシーはむしろ少ない が、かと言ってボッタクられることも少ないそうだ……という予 備知識はあったものの、いざ自分らがタクシーを利用する立場に なると、やはり不安だ。華氏らを待たせた空港の玄関先におじさ んが乗ってきた“タクシー”は、どう見ても普通の乗用車だ。華 氏は「とぅー・ごるえい。あーでぃろーん・はうす・ほウてる・ おん・ていらーひる!」と行き先を告げた。おじさん(運転手) は「?……! OK」と言って、運転し始めた。華氏がびゅんび ゅん飛ばした夜道を、時速50〜60キロで安全運転し、市街地 に入ってからはきっちり右左折のときは減速し、華氏も知ってい る界隈を通って、ちゃんとホテルに着いた。「OK?」「いえ〜 す。あ〜、はうまっち?」「£10!」。歯切れよく言われた金額 は、まあ妥当な線だろう。華氏らは安心して車を降りた。「ちょ っと飲もか」。3日間で560マイル(900キロ)も走ってく れたレンタカーを無事に返し、ホテルにたどり着けたことを祝っ て、ホテルのパブで乾杯した。マーフィーズ・スタウトがほろ苦 い。 翌朝、ホテルの周りには朝霧が立ちこめていた。妻が着替えて いる間、華氏は庭に出て、しっとりと濡れた芝の上を散歩した。 「ハウス(House)」というのは、単なる家というよりも、「お |
屋敷」といったほうがいいぐらいの邸宅だ。このホテルもかなり 敷地は広く、華氏らの部屋は廊下をずうーっと通った先のいちば ん端っこのほうだったので、朝食を食べに出るのに2分ぐらいか かった。ソーセージやらプディング(日本でいう<プリン>では ない)やらの朝食をすませ、タクシーを呼んで駅前の[i]に行 った。ここの前からアラン行きの船に連絡するバスが出るのだ。 今日からは車がないので、スーツケースは自分たちでごろごろ転 がさなければならない。すでにお土産などでかなり重くなってい る。 予定より少し遅れて、9時半にバスがやってきた。バス代1人 £3払う。ゴルウェーの西20マイルほどのロザビルまで、ゴル ウェー湾の北岸に沿って走る。この国(島)は、西部へ行くほど 石がゴロゴロし、木は少なくなり、草もまばらになる。最初立ち こめていた霧が晴れてくると、あちらこちらに石垣で囲った牧場 が見える。地面は白い。石の色だ。牛や羊は、石の間に申し訳程 度に生えた草を食べている。10時15分ごろ、ロザビルの港に 着いた。アラン行きの船(アラン・フライヤー)が待っている。 200人乗りで、自転車を持ち込む人、いろんな言葉を話す人な ど、1階席と2階の甲板に分かれて乗り込む。華氏らは眺めのよ い甲板に乗ったが、海の上は少し寒かった。綱をほどいて出発。 20分したら、最果ての島、イニシュモア島に立っているのだ。 → 27「馬車でゴウ・オン!」へ |