8.生き返った心地
エッフェル塔そばの公園で、塔をバックに写真を撮ったときは 少し日が差したものの、それ以外パリは1日中曇っていた。ほん とに肌寒かった。華氏はそわそわしながら「ト、トイレないかな あ」とつぶやいた。仮にも新婚旅行である。道端でチョット、と いうわけにもいかない。「地下鉄の駅は遠いんやろか」と妻が聞 く。行く手に見えるラジオフランスの建物をぐるっと回れば、駅 があるはずなのだが……。そのとき、歩道わきに不思議な施設が あるのに、2人同時に気づいた。「これ……、公衆トイレやろか ?」 「いっぺん使こてみーな」と妻。華氏は「実験してみよか」と 2フラン硬貨を用意して、説明文を読みにかかった。しかし、途 中まで読んで「ええい、めんどくさい」と思い、2フラン硬貨を 投入してドアを横に引くと、……開いた。いったんドアを閉め、 使用後にボタンを押すと、水が1回だけ流れる。水が流れたあと は、便器に覆いがされて、再度の使用ができなくなる。2フラン で2人、というふうにはいかないワケ。……生き返った心地で華 |
氏が出てくると、妻は不思議そうな、きまり悪そうな顔をしてい た。 ラジオフランス近くからブーローニュの森の近くのフォッシュ 駅に向かって走っているのは、地下鉄(メトロ)ではなく、郊外 電車のRER(エルウーエル)だった。切符売り場で、女の人と 押し問答ならぬ、コインを入れた箱をやったり取ったりして、1 人7フラン(140円)で切符を買い、運よく数分後に来た電車 に乗った。列車は2階建て。構内・車内アナウンスは全くなし。 ブーローニュの森に着いたころは夕方の7時近かったが、まだと ても明るかった。森を散策してマイヨ広場わきのホテルへ向かう 途中で、大勢の男の人がペタンク(鉄球投げ)をやっているのに 出くわした。「あ。ペタンクや! ペタンク!」。華氏は大学の フランス語の教科書に載っていたのを思い出し、1人で興奮して いる。土曜日の夕方に、老いも若きも公園で楽しんでいる、とい う図だろうか。「晩は何を食べようかねえ」などと相談しながら ホテルに着いた。今日こそ、ちゃんと食事をしに出なければ。 → 9「食べりゃぁいいんでしょ」へ |